最新記事

中国

謎の男、習近平をめぐる物騒な噂

クリントン米国務長官との会談をドタキャンし、「刺された」説も流れた習の素顔は秘密のベールに包まれてきたが

2012年11月9日(金)15時49分
長岡義博(本誌記者)

世代交代 頂点を目指して周到に準備を重ねてきた計算高い人物、とも言われる習 Reuters

 中国共産党はこの秋、5年に1度の政治の季節を迎える。18回目となる党大会が開かれ、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席から習近平(シー・チーピン)副主席へとトップの座が継承されるのだ。権力交代に伴い、人事をめぐる最高指導部内の駆け引きも激しさを増している。先週、習が取った前例のない行動はその兆候かもしれない。

 習は今月5日に予定されていた北京訪問中のクリントン米国務長官との会談を直前にキャンセルした。中国外務省は「日程調整上の都合」としか説明していないが、米メディアによれば、習は「背中にけがをした」という。ただ、その原因やけがの程度については不明だ。

 中国の指導者が外国高官との面会を突然キャンセルするのは極めて異例なため、ネットでは「実は習近平は刺された」という情報まで流れた。政府は火消しのために、マイクロブログで「背傷(背中の傷)」という言葉を検索禁止にした。

 物騒な情報が飛び交うのも、最高指導部である政治局常務委員の新メンバーをめぐり、熾烈な駆け引きが続いているからだ。

 間もなく引退する胡は影響力を残すため、出身母体である共産主義青年団(共青団)派が常務委員の過半数になるよう画策。対抗する保守派がこの動きに反発しているとされる。

 会談のドタキャンは保守派とみられる習による、胡への当て付けなのかもしれない。だとすれば、「刺された」との情報は、習をよく思わない共青団やその周辺から流された可能性がある。

 尖閣諸島(中国名・釣魚島)や南シナ海の領有権問題が米中の火種になっていることから、クリントンとの会談をキャンセルすることで政権移行前の外交上の「失点」を回避した、という見方もある。

 習の素顔はこれまで秘密のベールに包まれてきたが、ウィキリークスが暴いた米外交公電によれば、実は若い頃から中国のトップを目指し、周到に準備を重ねた計算高い人物だという。米国務長官との会談を直前にキャンセルするメリットとデメリットのどちらが大きいか。習は計算ずくのはずだ。

 臆測を打ち消すため中国外務省は、習が今月10日にデンマーク首相と会談する、と国内外メディアに通知した。ただその後、外務省が予定変更をあらためて連絡したとの情報も流れている。もし会談が再度キャンセルになれば──習をめぐる事態は本当に深刻なのかもしれない。

[2012年9月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中