シリア軍事介入の理想と現実
さらにイスラエル政府は、10月末までにイラン攻撃に踏み切る意思をますます強くにじませている。もしそうなれば、アメリカはほぼ確実にもっと広域の紛争に巻き込まれる。前線がいくつもある中東大戦の矢面に立たされる恐れもある。
しかもシリアの内戦は、リビアのような局地戦ではない。シリアの地形は複雑で都市は人口過密、住民は社会・宗教的に分断されている。反政府勢力は、お世辞にも一枚岩とは言い難い。そもそも反政府勢力とは誰のことなのか。あるいは誰と交渉すればいいのか。
あるシリアの活動家は本誌にこう語った。「今のシリアには、1つの敵(アサド体制)がいる。この体制が崩壊した後は、全員が敵になるだろう」
軍事介入後も内戦は続く
軍事介入支持派は、アメリカが手をこまねいていれば、その分だけ内戦後のシリアに対する影響力が弱まると主張する。だが、たとえ米軍が首尾よくシリアに新政権を樹立できたとしても、その政権がアメリカに恩義を感じるとは限らない。
ほとんどの場合、感謝の念は長続きせず、敵意に転化することも珍しくない。アメリカが後ろ盾になって誕生したアフガニスタンやイラクの政権との関係を見ればよく分かる。
ブルッキングズ研究所の軍事アナリスト、ケネス・ポラックは02年にイラク侵攻を強く主張した人物だが、今ははるかに慎重な見方をしている。ポラックは最近の論文で、今回のシリアのような内戦の終わり方は2通りしかないと指摘した。
「まず、どちらか一方が勝利するケース。もう1つは強力な武力を持つ第三者が介入して、強引に戦闘をやめさせるケースだ。米政府が一方の勢力を支援するか、シリアへの介入を主導しない限り、現状を大きく変えることはできない」
ただしポラックが推奨する具体策は、10年前にイラク問題で主張した全面的な軍事行動でも、リビアに用いたような限定的介入でもない。むしろポラックの案は、オバマ政権が既に行っているとみられる政策に近い。
アメリカは既に一方の勢力への支持を明確にしているのだから、次は反政府勢力への対戦車・対空兵器の供給が効果的だと、ポラックは指摘する。ただし、これらの兵器の出所がアメリカでなければならない理由はない。先週のシリア政府軍機の墜落事件は、既に性能のいい対空兵器が反政府勢力の手に渡っている可能性を示唆している。
さらに重要なアメリカの役割は、反政府勢力の軍事訓練と組織化かもしれない。米軍の特殊部隊は、もともとそのために設立された組織だ。このやり方なら先日、バラク・オバマ大統領がゴーサインを出した「非致死的」支援の範囲内にとどまるだろう。
「アメリカが内戦後の政治プロセスに影響力を発揮したければ、内戦に勝つ側の軍の整備に全力を注ぐのが賢明なやり方だ」と、ポラックは指摘する。
ポラックは明言していないが、過去にバルカン半島や中東の紛争に関わった情報当局者が異口同音に口にすることがある。紛争の当事者が殺戮を続けるのに「疲れる」までは、たとえ軍事介入を行っても内戦はなかなか終わらないという現実だ。
レバノン内戦は終結まで15年かかった。ボスニアでは、身の毛もよだつ惨劇が3年も続いた。これこそ、「平和のための野蛮なる戦い」だ。
[2012年8月29日号掲載]