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南シナ海

中国海軍が出動しない訳

2012年8月6日(月)17時50分
トレファー・モス(ジャーナリスト)

 中国の近隣諸国は、必ずしもこの変化を恐れる必要はない。これは、軍事力に訴える代わりにせいぜい軽武装の法執行艦船で紛争を解決しようという意図の表れだ。

 それは中国からけんかを売ることはないが、けんかを売られたら断固として主張するという中国の新たな外交方針の一環でもある。「非対立的な強硬姿勢」ともいわれる。スカボロー礁で中国が見せた強硬ながらも抑制の利いた対応をよく言い表している。

 南シナ海をめぐる領有権争いは、重慶市共産党委員会書記だったのスキャンダルなどの失態から国民の目をそらす格好の材料だったが、それをしなかったところにも抑制が表れている。

 だが中国の愛国主義者の中には、中間戦略などむしずが走るという筋金入りの強硬派もいる。彼らにとっては、圧倒的な武力を持つ海軍の代わりに法執行艦や非武装の巡視船を派遣するという判断は弱さの表れだ。

フィリピンが犯した失策

 先月下旬、ベトナムが南シナ海の南沙諸島と西沙諸島の領有権を明記した海洋法を成立させたときも、中国版ツイッターの攻撃はベトナム政府ではなく中国政府に向かった。中国指導部がフィリピンに甘かったせいでベトナムを図に乗らせてしまったと、いうわけだ。

 いかに彼らの主張が過激であろうと黙殺はできないことを中国政府はよく知っている。実際、体制の生き残りは保守派の支持に懸かっていると言ってもいい。

 スカボロー礁で中国政府は十分な成果を挙げた。領土と自国の漁師を守って国家の威信を保った。本当に戦争を望んでいたのは、保守派のネチズンの中でもごく一部の過激な愛国主義者たちだけだったはずだ。

 中国と領土問題を抱える国々は同時に、油断もできない。中国政府が中間戦略に傾き始めたとはいえ、人民解放軍の強力な軍事力は中国政府にとって常に生きた選択肢であり続けている。

 スカボロー礁に軍艦を派遣したフィリピンは、戦術的失策を犯した。おかげで中国はもう少しで中間戦略路線を捨てざるを得なくなるところだった。

 将来また似たような過ちを犯せば、今度こそ軍事力による反撃を招きかねない。今、南シナ海に軍の機関を設置すると言いだしているのも、ベトナムが海洋法を成立させたことに対抗するものだ。

 スカボロー礁におけるような紛争は、南シナ海で今後もっと頻発するだろう。この海域で操業する漁民が乱獲で暮らしに窮し怒れば怒るほど、漁船同士の衝突が紛争の発火点になるのは避けられない。

 スカボロー・モデルを採用し法執行艦隊を充実させることで、中国はそうした紛争に対し軍事的手段には頼らなくても国内外を満足させられる手段を得た。だが中国指導部が国内の強硬派の顔色をうかがっている限り、中間戦略は常に軍事力に取って代わられるリスクがある。

 だからこそ、周辺国は中国政府にその戦略を放棄する理由を与えてはならないのだ。

From the-diplomat.com

[2012年7月11日号掲載]

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