最新記事

オリンピック

金メダルラッシュの北が貫く自主ルール

すでに4つの金メダルを獲得した北朝鮮、快進撃の秘密は将軍様のご加護でも人種的優位性でもない

2012年8月2日(木)18時35分
ジューン・トーマス

絶好調 女子柔道52キロ級のアン・クメ選手は北朝鮮に金メダル第1号をもたらした Darren Staples-Reuters

 ロンドンオリンピック前半のメダル獲得レース最大のサプライズは、北朝鮮の快進撃だろう。

 8月1日までに合計5個のメダルを獲得したが、そのうち4個が金メダル(女子柔道と重量挙げ)。金メダルの数だけで比較すれば世界5位だ。

 人民の多くが飢えに苦しむ北朝鮮のスポーツ選手が、なぜこれほど活躍できるのか?
 
 重量挙げ男子56キロ級で自身の体重の3倍に当たる168キロを持ち上げ、世界タイ記録で金メダルに輝いたオム・ユンチョル選手(20)に言わせれば、すべては昨年末に死去した元最高指導者、金正日のおかげらしい。「偉大なる指導者、金正日同志が見守ってくれていた」とオムは語っている。

 将軍様のご加護があったかどうかはともかく、米露対立が激化した冷戦時代、政治的イデオロギーの強い国がスポーツ強化に分不相応の予算を投入するケースは少なくなかった。北朝鮮のオリンピック選手は明らかに、日々の食事に事欠く大多数の国民より恵まれた栄養状態にある。

 ただし北朝鮮問題に詳しいブライアン・マイヤーズは英ガーディアン紙に対し、スポーツでの成果は北朝鮮が自国の優位性を誇示する際の中核の要素ではない、と指摘している。

「ナチスドイツは、アーリア人種(ゲルマン人)が道徳と知性だけでなく肉体的にも他民族より優れていると主張した。それとは対照的に、北朝鮮は道徳面での優位性しか強調しない。金メダルを取れない種目が多くても、北朝鮮にとっては大した問題ではない。もしいくつかでも金メダルを取れれば、それを自分たちが道徳的に優れている証しだと主張し、選手たちは自分を鼓舞してくれた指導者に感謝する」

年齢詐称もドーピングもあり?

 それよりも心配なのは、競技に対する北朝鮮の姿勢だ。5月に平壌で開かれたセミナーで、あるスピーカーは北朝鮮が「すべての競技で北朝鮮方式のルールと方針を貫く」べきだと語った。

 おそらくこの「北朝鮮方式」が、重量挙げにも適用されたのだろう。北朝鮮代表のオムは昨年の世界ランキング11位という有力選手だが、あえてランキング下位の選手が中心の午前中のBグループでの競技することを選んだ。8時間後に競技に臨んだ上位グループの選手たちは、カメラのフラッシュを浴びながらオムが出した世界記録に立ち向かわなければならなかった。

 核兵器をちらつかせた交渉が得意な北朝鮮だけに、ロンドン五輪で他にもさまざまな駆け引きをしないとも限らない。北朝鮮の女子体操チームは2年前、選手2人が年齢を詐称。そのペナルティーでロンドンでは団体戦に出場できなかった。

 昨年のワールドカップ女子サッカーでは、北朝鮮の選手5人がドーピング検査でステロイド(筋肉増強剤)の陽性反応が出た。それでも、北朝鮮の担当者は「落雷に遭った選手の治療に漢方薬のジャコウを使っただけ」と強弁した。

 ロンドンで北朝鮮の女子サッカーチームを待ち受けた最大の障害は、初戦の試合前の選手紹介で誤って韓国国旗が画面に映し出されたことだろう。選手を奮起させるために北朝鮮政府が企んだ作戦かもしれないって?

 さすがにそれはないだろう。でも念のため、国旗掲揚のポールを注意して見ていることにしよう。

From GlobalPost.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中