米大使が見たスパイ映画並みの中国政治
陳の親族には既に危害が
5月末、山東省で自宅軟禁されている陳の兄の光復(コアン・フー)は、自宅を脱出して北京入りした。目的は、警察に逮捕された息子のために弁護士を探すことだった。自宅に押し入ってきた人たち(おそらく私服警官だろう)が暴力を振るい始めたとき、光復の息子は両親を守るためにナイフを取り出し、それを理由に身柄を拘束されたのだ。
北京の米大使館を経由して、中国の反体制活動家が続々と欧米諸国に出ていくという事態は、米中両国政府共に望んでいない。
陳の事件に関して本誌が中国外務省にコメントを求めると、厳しい言葉遣いの返信が記されたファクスが送り返されてきた。そこには、両国関係のために、アメリカは「今回の出来事から真剣に教訓を学び」「政策と行動を見直すべき」であると書かれていた。
一方、クリントンは中国側に対してこう請け合っている。「このような事態が再び起きるとは思っていない」
ロックが大使として着任したとき、中国のソーシャルメディア系のウェブサイトには、新しい大使の控えめな態度を絶賛するコメントがあふれ返った。リュックサックを肩に掛け、スターバックスでコーヒーを買うロックの姿を映した画像が至る所に出回った。
しかし陳事件の後、中国政府系の新聞は、ロックについて辛口の人物評を載せている。ある北京の新聞はこう書いた。
「旅客機のエコノミークラスで北京にやって来て、自分でリュックサックを背負い、割引券を使ってコーヒーを買うなど、庶民派イメージを演出したまでは良かった。だが、その後の振る舞いを見れば、慎重に言葉と行動を選ぶ駐中国大使というより、ことあるごとに対立をあおる典型的なアメリカ人政治家としか思えない」
ロック自身は、非難や中傷に動じず、この先に待ち受けている試練に心がくじけることもないようだ。「シアトルでWTO反対デモも経験したし、大地震に大洪水、森林火災も経験した」と、ロックは言う。「なるべく落ち着いて行動し、冷静さを失わないように努めるだけだ」
[2012年6月 6日号掲載]