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災害幽霊船が物語る大震災の記憶
あの日から1年以上も太平洋をさまよい続けたイカ釣り漁船の悲しい末路
旅の終わり 海底に沈めるため蜂の巣にされたイカ釣り漁船(今年4月、アラスカ沖) Reuters
「幽霊船」の船体一面に浮き出た不気味な赤さびが物語るのは、発生から1年という時間の経過だけではない。死者・行方不明者約2万人を記録した東日本大震災の被害の甚大さを、あらためて世界に思い起こさせた。
昨年3月の大震災後の津波で青森県の漁港からアラスカ沖の太平洋にまで流された日本のイカ釣り漁船が先週、アメリカ沿岸警備隊によって撃沈された。
漁船は沈むことなく太平洋を数千キロにわたり漂流したが、日本への曳航費用が高額なことから所有者が権利を放棄した。全長が61メートルあり、無人で明かりもなく夜間はほかの船の航行に危険なため、沿岸警備隊が機関砲で砲撃して沈めることになった。
巡視船による集中砲火で漁船は炎上して傾き、砲撃開始から約4時間後に沈没が確認された。沿岸警備隊は船に残された燃料は少量で、環境汚染の恐れは少ないと説明している。
日本政府によれば、津波で被災地から流出した瓦礫のうち、約150万トンが今も太平洋上を漂流しているという。今後は瓦礫だけでなく、犠牲者の遺骨や遺品が北米の西海岸に流れ着く可能性もある。
そのたびに世界は、時とともに忘れかけた悲劇の記憶を思い出すのかもしれない。
[2012年4月18日号掲載]