最新記事

災害

幽霊船が物語る大震災の記憶

あの日から1年以上も太平洋をさまよい続けたイカ釣り漁船の悲しい末路

2012年5月16日(水)14時23分

旅の終わり 海底に沈めるため蜂の巣にされたイカ釣り漁船(今年4月、アラスカ沖) Reuters

「幽霊船」の船体一面に浮き出た不気味な赤さびが物語るのは、発生から1年という時間の経過だけではない。死者・行方不明者約2万人を記録した東日本大震災の被害の甚大さを、あらためて世界に思い起こさせた。

昨年3月の大震災後の津波で青森県の漁港からアラスカ沖の太平洋にまで流された日本のイカ釣り漁船が先週、アメリカ沿岸警備隊によって撃沈された。

漁船は沈むことなく太平洋を数千キロにわたり漂流したが、日本への曳航費用が高額なことから所有者が権利を放棄した。全長が61メートルあり、無人で明かりもなく夜間はほかの船の航行に危険なため、沿岸警備隊が機関砲で砲撃して沈めることになった。

 巡視船による集中砲火で漁船は炎上して傾き、砲撃開始から約4時間後に沈没が確認された。沿岸警備隊は船に残された燃料は少量で、環境汚染の恐れは少ないと説明している。

 日本政府によれば、津波で被災地から流出した瓦礫のうち、約150万トンが今も太平洋上を漂流しているという。今後は瓦礫だけでなく、犠牲者の遺骨や遺品が北米の西海岸に流れ着く可能性もある。

 そのたびに世界は、時とともに忘れかけた悲劇の記憶を思い出すのかもしれない。

[2012年4月18日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中