薄煕来の放蕩息子と英国人怪死の「接点」
フェラーリでデートに
多くの話によれば、瓜瓜はハロー時代はまじめだったが、オックスフォード大学に進学して、はじけてしまったらしい。金遣いが荒くパーティーに通う姿は写真に撮られてネット上に出回った。俳優ジャッキー・チェンをオックスフォードに招いた写真や、共産党長老の陳雲(チェン・ユィン)の孫娘・陳暁丹(チェン・シアオタン)と護衛付きでチベットを旅行した写真もある。
こうした特権階級子弟の派手な暮らしは、一般市民の間で妬みを生み、共産党中央政治局のメンバー(薄煕来もその1人だ)の眉をひそめさせた。もちろん「課外活動」は、瓜瓜自身のマイナスにもなった。成績不振でオックスフォードを停学処分になったのだ。このとき瓜瓜に便宜を図ってやるよう、中国当局と西側の財界人の両方からオックスフォードに働き掛けがあったとされる。
ヘイウッドと瓜瓜はそれなりに親しい関係で、イギリスと中国の両方で会う機会をつくっていたらしい。ヘイウッドは「家族思いの楽天的な男で、ヨットなどシンプルな娯楽が好きだった」と、大連でヘイウッドの知り合いだったという人物は言う。
2人の間にはスポーツカーという共通の趣味もあったようだ。あるときタキシードを着込んだ瓜瓜が、フェラーリで北京のアメリカ大使公邸に乗りつけ、ジョン・ハンツマン大使(当時)の娘を夕食に誘い出したというエピソードもよく知られている。
それがよほど気になったのだろうか。薄煕来は3月の全人代会期中に開いた記者会見で、瓜瓜はフェラーリを運転したことなどないとし、噂は「まったくのでたらめだ!」と全面的に否定。瓜瓜の留学費用もすべて奨学金で賄われていると説明した。
ヘイウッドはここ数年、イギリスの高級車アストン・マーチンの北京販売代理店のコンサルティングをしていたほか、複数の顧客の仕事をしていたようだ。MI6(英国情報部国外部門)の元職員が設立した戦略的情報会社ハクルートでも、コンサルタントの仕事をしていた。
ハクルートは企業コンサルティングや信用調査などの業務を行っているが、実務を担当するのは契約ベースで雇った覆面調査官であることが多い。「(ヘイウッドが)情報機関とつながりがあったとは思えない」と、過去10年来ヘイウッドの友人だというイギリス人は言う。「ニールは、物事を何かと誇張しがちだったのではないか」
ヘイウッドがスパイ活動に関わっていなかったとしても、元スパイとわずかでも付き合いがあったなら──そういった人物と知り合いであることは、共産党政治局員の薄煕来にとって大きなマイナスになるだろう。
独りぼっちで死んだ男
ヘイウッドを知るある人物は、彼が重慶で独りぼっちで死んだことに同情している。「彼は中国で自分のネットワークを駆使しながら、フリーランスで仕事をしている多くの外国人の1人だった。もしかしたら小さなビジネスを営みながら、自分でも正体の分からない何かにのみ込まれていくプレッシャーが、彼の健康をむしばみ、死に至らしめたのかもしれない」
ヘイウッドの死因は謎のままだが、瓜瓜の近況はよく知られている。オックスフォードで放蕩の限りを尽くしたにもかかわらず、今は西側のもう1つの最高学府、ハーバード大学ケネディ行政大学院で学んでいるのだ。
どうやら今回はフェラーリを乗り回したりはしていないらしい。ハーバード関係筋によると、最近いくつかの授業に欠席しているという話だが。
[2012年4月11日号掲載]