周回遅れでTPPに目覚めたカナダの焦り
ようやくアジアの重要性に気付いた保守党政権は交渉参加国からの支持取り付けに奔走中
180度転換 カナダのハーパー首相(右)は昨年11月のAPECサミットでTPP交渉参加に舵を切った(左はペルーのウマラ大統領) Jason Reed-Reuters
カナダのスティーブン・ハーパー首相は昨年11月、ホノルルで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に際し、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に関心があると公式に表明した。
カナダの姿勢が180度転換したことを示す発言だった。それまでカナダはTPPを遠くから冷ややかに眺めるだけで、前提条件をのまなければ参加できないような交渉には加わらないと明言していた。
カナダはこれまで、TPPの重要性を認識していなかったのだ。TPPは当初、経済規模の小さい4カ国で細々と発足した(ニュージーランド、チリ、シンガポールに加えて、土壇場でブルネイが参加)。08年にペルーで開かれたAPEC首脳会議を契機に拡大交渉が始まった。
アメリカが交渉参加を決めたのは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の時代だ。議会の批判をかわすためにも貿易交渉で成果を挙げる必要があったブッシュ政権は、将来的なアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想も視野に入れながら、TPPの拡大交渉に参加。これを機にペルー、オーストラリア、ベトナム、少し遅れてマレーシアが参加を表明した。
日本の意思表示に便乗
それでも、少数与党だったカナダの保守党は、自国の将来にとってアジアが意味するものが大きいということ(もしかすると北米やヨーロッパよりも大きいこと)を認識していなかった。だがここ2年ほどで、TPPは無視できない存在になった。
アメリカがバラク・オバマ大統領の下でTPP交渉に本腰を入れる意向を示し、09年から交渉が活発化。昨年11月のAPEC首脳会議の際には、交渉参加9カ国が「野心的で21世紀型の協定」の大枠の合意に達したという声明を発表し、12年中の最終妥結を目指すという工程も示された。
TPPが現実味を帯びるなかで、カナダは蚊帳の外に置かれていることに危機感を抱き始めた。そこでTPP交渉参加の可能性についてアメリカの意向を探ったが、オバマ政権の反応は素っ気なかった。
第1に、交渉参加国が増えれば、ただでさえ厄介な交渉がさらに難航しかねないという問題があった。参加国にはオーストラリアやニュージーランドといった先進国もあれば、ベトナムのように政府の主導によって経済の舵取りをしている新興国もあり、各国の経済的利害はそれぞれ異なる。
第2の理由は、アメリカが目指す野心的な合意の成立に、カナダが積極的に貢献するかどうか分からなかったこと。カナダの知的所有権関連法は「ざる法」であることで知られる。映画など広範な「文化産業」を自由貿易交渉から除外するよう要求してもいる。
さらにカナダは、酪農・養鶏分野で時代遅れの供給管理制度にしがみついている(これはアメリカよりニュージーランドにとって重要な点かもしれない)。そのためこの分野で、外国製品はカナダ市場から事実上締め出されている。
ひとことで言えば、カナダはあまり歓迎されていなかった。しかし、誰もそれを表立って言いたくなかったし、カナダも参加を明確に表明して拒否されるリスクは避けたかった。