周回遅れでTPPに目覚めたカナダの焦り
こうして昨年11月のAPECサミットがやって来た。日本は会議に先立ち、TPP交渉参加に関心があると表明した。日本が参加すれば、交渉の流れは大きく変わる可能性があった。日本の経済規模が大きいためだけでなく、貿易交渉で農産物分野などの市場開放を拒み続けてきた日本の姿勢が、大きく変わることを意味するためだ。
日本が参加の方針を示したことで、カナダ(とメキシコ)も意思表示をしやすくなった。アメリカとしては、日本を歓迎する一方で、NAFTA(北米自由貿易協定)のパートナーであり、最大の輸出相手国でもあるカナダの参加を拒否するわけにはいかなくなってきた。
オバマはカナダ(とメキシコ)がTPP交渉参加に関心を示したことを「歓迎する」と語った。ただし、交渉参加には厳しい条件が付くと強調することも忘れなかった。
カナダ当局は活発な働き掛けを開始した。エド・ファスト貿易相はTPP交渉参加への支持を取り付けるため、マレーシア、シンガポール、ブルネイを歴訪しており、今後すべての交渉参加国を訪問する予定だ。マレーシアはこれまでの合意事項を受け入れるという条件付きで、カナダ(とメキシコ)の参加に支持を表明した。
カナダとアメリカの事務レベル協議も始まった。米政府はこの場でカナダの交渉参加に関する米産業界の意見を伝えた。ファストによれば「わが国のTPP参加を支持する意見が91%を超えていた」という。
「蚊帳の中」に入りたい
APEC加盟国で第4の経済大国であるカナダのTPP参加は、確かに経済的には意義がある。しかしカナダがTPPの「ドレスコード」(丸裸同然の市場開放)をのむ用意があるかどうか、包括的で大胆で多分野に及ぶ協定に同意する用意があるかどうかは分からない。
ハーパー政権は新しい著作権関連法の制定にようやく近づいた。投資規制の緩和(特に通信分野の規制は悪名高い)にも乗り出す意向だ。
カナダの酪農・養鶏業界は、経済的な重要度に見合わない大きな政治力を持つ。ハーパー政権がその圧力に抵抗できるかどうかは疑問だが、TPPが誘因となってカナダ産業界の構造改革が進む可能性もある。
交渉参加国にはそれぞれに守りたい利害がある。どのような交渉でも、それらを擦り合わせる過程で互いに譲歩が必要になる。船に乗りたいのなら、カナダは急いだほうがいい。
途中から新たに3カ国が加われば、交渉がさらに紛糾するのは明らかだ。それでもカナダは参加を望んでいる。今からでも「蚊帳の中」に入ったほうがいいと気付いたからだ。
交渉に参加している国々がカナダの参加にメリットがあると判断するかどうかは分からない。それでもカナダは、TPPという名の聖杯を追い求める。その杯が「奇跡」をもたらしてくれることを期待して。
[2012年3月14日号掲載]