中国共産党を揺さぶる謎の失踪劇
この事件は、中国政府としても厄介な時期に起きた。中国では秋の第18回共産党大会で、共産党総書記が胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席から習近平(シー・チンピン)国家副主席に交代し、来年3月の全国人民代表大会で、国家主席の座も習に移る見込みだ。周辺の人事も大幅に刷新される見通しで、現在はそれに向けた派閥抗争が水面下で激化している。
また習は今週、中国最高指導者への地固めとして、訪米を予定している。その直前に浮上した王の失踪事件は、米中関係をぎくしゃくさせる恐れがあった。だが中国外務省の崔天凱(ツォイ・ティエンカイ)次官は、事件は(習の訪米とは)「まったく別の問題」であり、既に「解決済み」と懸念を一蹴した(ただし王に何が起きたのかは語らなかった)。
政府が解決済みとして口をつぐむなら、中国人ネットユーザーたちから情報を集めればいい。例えば先週、成都市のアメリカ総領事館周辺に多くのパトカーが配置されるという異例の措置が取られたことが、ネット上で話題になった。王自身が汚職捜査の対象となり、北京で身柄を拘束されているとの噂もある。
ネチズン5億人の監視力
重慶市政府は微博の公式サイトで、王がストレスと過労のため「休暇型の治療を受け入れている」と発表した。この表現には政府の遠回しな表現に慣れているネチズンたちも喜々として飛び付いた。たちまち「休暇型の治療」は微博で最も使われる言葉の1つになり、2時間もするとリツイートとコメントの数は数万件に上った。
当局は「王立軍」の検索を禁止しようとしたが失敗。重慶市政府の当初の声明もいったん削除され、あらためてコメント不可能なフォーマットで再掲載された。
この事件の波紋がどこまで広がるかは分からない(それが分かるのは数カ月後になるだろう)。だが少なくとも中国の高級官僚たちにとって、今や5億人に上る国内のネットユーザーを完全に検閲し、コントロールするのは不可能だと思い知る教訓になったはずだ。
実は中国政府は最近、政府高官や省庁に微博を使うことを奨励していた。実際、南京市の水道当局は、近隣自治体から徴収した下水処理料金の納付を怠ってきた企業名を微博で公表し、支払いを催促した。政府としては、人々の反対意見表明の場となっている微博を監視することで、トラブルの芽を摘みたいという思惑もある。
政府高官は最近、市民への情報提供と透明性向上の手段として「微博をもっとうまく使う」よう政府機関に呼び掛けた。その一方で、政府は依然として微妙な話題については議論を禁止しようと検閲を続けている。万が一「政府の転覆」をもくろむ書き込みがなされた場合にその出所を特定しやすいよう、ユーザーの実名登録を近く義務化する。
だがこの事件の説明に見られるように、政府当局の発言が曖昧で透明性を欠いていれば、「市民との対話を活発化させる」ために微博を駆使しようなどという呼びかけは失笑を買うだけだ。
政府がそんな態度を取り続ければ、市民はますます政府の手が及ばない微博の世界に潜り込み、真実を探ろうとするだろう。
[2012年2月22日号掲載]