最新記事

イラン危機

イラン制裁より原油が欲しいインドの苦境

核開発に対する制裁包囲網の一角を突き崩すため、イランがインドに揺さぶりをかける

2012年2月9日(木)15時36分
ジェーソン・オーバードーフ

ライフライン 原油供給の12〜15%をイランに依存するインド(コルカタの燃料市場で働く労働者) Rupak De Chowdhuri-Reuters

 核開発をめぐる経済制裁が続く中、イランが天然資源を「人質」にインドに圧力をかけ、包囲網の一角を突き崩そうとしている。イラン政府が今週、ペルシャ湾の天然ガス田の共同開発契約に「1カ月以内に」サインするようインド政府に通告したことが明らかになったのだ。

 オバマ米大統領は6日にイラン中央銀行に対する追加制裁を発表。これまでアメリカの銀行はイランとの取引を拒絶すれば良く、資産凍結までは求められなかった。しかし今回の追加制裁はアメリカの金融機関に対して、国内に持ち込まれたイランの国有資産を確認し次第差し押さえるよう求めている。オバマによれば、昨年末に実施した制裁措置は「ありとあらゆる方法で骨抜きにされている」状態だという。

 イランの核開発には反対しているインドも、イラン産原油の輸入を禁止する欧米の制裁の輪からは何とか逃れたがっている。インドは最近、原油輸入代金の45%を自国通貨ルピーで支払えるようイランと交渉した。イラン中央銀行とのドル決済を規制する制裁を回避する目的だ。

中国、パキスタンとの衝突も視野に

 インドが制裁の輪に加わりたくないのは、原油供給の12〜15%をイランに依存しているからだけではない。インド政府は将来起こりうる中国、パキスタンとの衝突に備えてイランとの関係を重要視している。 

 懸案の天然ガス田は、国有企業インド石油ガス公社などが作る共同企業体が開発権を持つ。今回のイランの圧力は、おそらくインドに対してアメリカの経済制裁に対抗してさらに強い姿勢を取るよう仕向ける策略なのだろう。

 インドの共同企業体はイラン政府に対し、50億ドルを投じて今後7年から8年でイラン沖の天然ガス田を開発する計画を伝えている。しかしアメリカが1996年にイランとリビアを対象に出した経済制裁のブラックリストに載ることを恐れて、契約は結ばなかった。

 イラン政府は今週、アメリカの追加制裁を「敵対的な行動」と非難する一方で、イラン外務省の報道官は追加制裁がイランの核開発に影響を与えることはない、とも語っている。

 イランを捨てて天然資源を失うか、アメリカを怒らせるか。インドに残された時間はそれほど多くない。


GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中