「イラン攻撃」論に5つの不安
中東 核開発阻止のためタカ派は主戦論に傾いているがイランの実力を侮って安易に攻撃に踏み切れば痛い目に遭う
険しい道 米軍はイラクとアフガニスタンの戦争で疲弊したまま、過去数十年で最強の敵と戦う羽目に Kenneth Abbate-U.S. Navy
イランの核開発を阻止するためなら手段を選ぶな──アメリカのタカ派はこう声高に主張する。
だが、米軍が活用できる「手段」の選択肢は近い将来、今より少なくなるだろう。バラク・オバマ米大統領とレオン・パネッタ米国防長官は最近、国防予算の大幅な削減を予告したばかり。アメリカがイランとの戦争に踏み切る可能性は、多くのタカ派がかつて思っていたよりずっと小さいのかもしれない。
アメリカがイランとの軍事対決に乗り出す可能性が縮小したことに、不安を感じる人もいるだろう。何しろパネッタは昨年12月、イランが1年以内に核兵器を手にする可能性があると示唆している(実際の可能性は小さいが)。
確かにイランの核保有は、(イラン政府関係者を別にすれば)誰にとっても歓迎できることではない。しかし、アメリカがイランと戦争状態に突入するのであれば、その決定を下す前にアメリカ全体で国民的な議論を行うべきだ。進軍ラッパを威勢よく吹き鳴らして反対派の声をかき消すのは、賢明な選択でない。アメリカ大統領選の投票日が近づき、開戦論が勢いを増すとすれば、冷静な議論がますます重要になる。
考慮すべき重要な点は5つある。
まず第1の点。おそらくイランは、アメリカが過去数十年間に戦ったどの敵よりも強力な軍隊を擁している。グレナダやパナマ、ソマリア、ハイチ、ボスニア、セルビア、さらにはアフガニスタンやイラクとは話が違う。
例えば、イランの海軍は沿岸での戦いを得意とする。中東の原油輸出ルートであるホルムズ海峡をある程度の期間封鎖し、アメリカや世界の経済を混乱させる力を持っているかもしれない。
アルカイダより手ごわい
イランは、高度な防空システムを備えている可能性もある。イランと戦争になれば、アメリカの航空戦力はベトナム戦争以来の大きな打撃を被るかもしれない。アメリカ軍の爆撃機の数が減っていることを考えると、撃墜などにより爆撃機を失うことは避けたいところだ。
それにイラク軍と違って、イランの陸軍と革命防衛隊は、アメリカの地上部隊の姿を見ただけで尻尾を巻いて逃げ出したりはしないだろう。むしろ、アフガニスタンとイラクの戦争をじっくり観察して、アメリカとの戦い方を学習しているはずだ。
第2に、イラン情報省は世界で指折りの諜報機関だ。この30年、反体制活動家や旧王政時代の高官など、体制の敵と見なした人物を次々と暗殺してきた。現在も、暗殺やスパイ活動、テロ攻撃などを実行する能力を保っている。アメリカ国内にも秘密工作員を潜伏させている可能性が高い。
昨年、マンソール・アーバブジアというイラン系アメリカ人が、メキシコの麻薬犯罪組織ロス・セタスに依頼してアメリカで駐米サウジアラビア大使暗殺を企てたとして摘発された。確証はないが、アーバブジアがイラン情報省と結びついていた可能性は十分にある。暗殺計画は未遂に終わったが、イラン情報省の工作活動の手がアメリカ国内まで伸びていることは分かった。
在外イラン人やイラン系住民を苦しめる狙いで、イラン情報省が国内の親族を投獄し、虐待するケースも多い。100万〜150万人のイラン系アメリカ人がこの標的になるかもしれない。