ビルマ民主化はどこまで本気か
オバマ政権も、ビルマが中国との長年の友好関係を見直そうとしていると判断したのだろう。テイン・セインは今年9月、中国と共同で建設計画を進めていたミッソン水力発電ダムの開発中止を表明した。環境団体や民主化活動家はこの決定を喜んだが、中国にとっては大きな衝撃だった。ビルマが中国に盾突くのは異例の事態だ。
政治的変革に対する本気度を測る上で最大のバロメーターは、民主化運動の象徴であるスー・チーの自由をどこまで認めるかだろう。89年以来、断続的に15年間続いたスー・チーの自宅軟禁が解除されたのは、昨年11月の総選挙の数日後だった。
募る期待と消えない疑念
NLDは不正の恐れを理由にこの総選挙への参加をボイコットした。そのNLDを率いるスー・チーが、ある程度信頼できる率直な人物とテイン・セインを評価しているのは、多くのビルマ国民にとって心強い。変化の兆候が本物だとスー・チーが言うのなら、本当にそうなのかもしれない──。
だが疑いを拭い切れない人々もいる。彼らにしてみれば、今のスー・チーは政府の「正統性獲得キャンペーン」の道具だ。
「正直に言って強い疑問を感じる」と、全ビルマ学生民主戦線のタン・ケー議長は語る。「昨年の総選挙では多くの組織が排除され、政権の正統性は証明されていない。スー・チーは正しいかもしれないが、心配でもある。正統性を得るために政権が彼女を操っているのかもしれない。国内でも国際社会でも面目を失っている指導層にとっては、今回のクリントン訪問はありがたいことだろう」
事実、これほどの大物が来訪することに、ビルマ政府は大喜びしている。コー・コー・ライン大統領首席顧問は「ミャンマーに対するアメリカの政策は大きく転換するだろう」と発言した。
クリントンはビルマ政府に対し、さらなる政治犯の釈放や人権侵害問題への対応、少数民族の待遇改善を要求するとみられている。だが現実的に見て、ビルマ政府はどこまで応じるのか。答えはおそらく、「すべての要求に」だ。
「クリントンが成果なしにビルマを離れることはないだろう」と、アウン・ゾーは言う。「政治犯がさらに釈放されるなど、何らかの譲歩を手にするはずだ。そうなれば、ビルマとアメリカの関係は改善へ向けて大きく進展する」
それでも、ビルマがいきなり完全民主化へ舵を切るとまでは誰も考えていない。アウン・ゾーが言うように、今後も軍部の独裁は続くだろうし、彼らがすぐに去ることはないだろう。
ビルマの議会では、軍部が議席の4分の1を占めている。改革派に見えるテイン・セインも軍部の出身で、今年3月まで軍事政権を率いた強権的なタン・シュエ将軍の側近中の側近だった。
スーツ姿でクリントンを出迎える相手がかつて軍服で闊歩していたという事実を、アメリカは忘れていないはずだ。
[2011年12月14日号掲載]