南シナ海、中国政府の大暴論
しかし、南シナ海の問題の島々の領有権を主張してきたのは中国だけではないし、中国の主張が広く受け入れられているわけでもない。それでも中国政府や中国の研究者たちは、歴史的記録を領有権の根拠にしようとしている。
例えば、中国社会科学院辺疆史地研究センターの李国強(リー・クオチアン)教授は7月、政府系英字紙チャイナ・デイリーにこう書いている。「歴史的記録によれば、中国人は南シナ海の島々を秦(紀元前221〜206年)と漢(紀元前202〜紀元220年)の時代に発見した」。李によれば、中国の海洋の境界線は清(1616〜1912年)の時代に確立されたという。
「一方、ベトナムやマレーシア、フィリピンは清の時代以前、南シナ海の島々のことをほとんど知らなかった」と、李は書いている。
中国側の主張に対抗して、ベトナムは問題の島々──西沙(パラセル)群島と南沙(スプラトリー)諸島──の17世紀以来の「歴史的主権」を裏付けるための地図や記録を持ち出している。記録の古さでは中国の足元にも及ばないが、少なくとも数世紀にわたり、中国の領有権に異が唱えられていた証拠にはなる。
それに、秦や漢の時代を基準にするのであれば、中国の領土は今よりずっと小さくなる。当時は、チベット自治区や新疆ウイグル自治区、東北部(満州)は中国の一部になっていなかったからだ。
「資源共同開発」の欺瞞
中国政府が近隣諸国に提案している妥協案の1つは、領有権争いを棚上げして天然資源の共同開発を行うという案だ。最近では、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が8月フィリピンのベニグノ・アキノ大統領と会談したときに、この趣旨の提案を行っている。
問題は、この案に重大な問題が潜んでいることだ。中国外務省のウェブサイトによると、この案は以下の4つの要素で構成される。
1)問題のエリアの主権は中国が所有する。
2)機が熟するまで、領有権争いを棚上げする。これは、主権を放棄することを意味しない。
3)係争中のエリアの開発は共同で実施する。
4)共同開発の目的は、協力関係を通じて相互理解を深め、領有権問題の最終解決を実現する条件を整えることである。
要するに中国側の目的は、紛争を棚上げすることではなく、自国の言い分を他国にのませることにあるのだ。中国の提案を受け入れた国が1カ国もないのは当然だ。
中国の研究者の中には、国連海洋法条約の見直しを主張する論者も現れている。この条約には「欠陥」があり、「条約を施行する前に、中国は自国の状況を検討すべきである」と、アモイ大学海洋政策・法律センターの李金明(リー・チンミン)教授は言う。
自国の領有権を認めるように改正がなされない限り、条約に従うべきでない、というのだ。条約が発効して17年になり、しかも中国も批准しているのに、である。
ひとことで言えば、中国政府は国際法の例外扱いを欲しているように見える。しかし、法律とはそういうものではない。特定の国に例外を認めれば、国際法の存在意義はなくなってしまう。
[2011年11月 2日号掲載]