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ユダヤ国家イスラエル経済の矛盾に抗議デモの嵐
物価高騰の背景には、ヨルダン川西岸への入植費用やユダヤ教超正統派への福祉予算という特殊事情も
発火寸前 9月3日、生活費高騰に抗議するデモには史上最多45万人が参加した(写真は7月23日) Amir Cohen-Reuters
それは数人の大学生が住宅価格や家賃の上昇に抗議して、テルアビブの目抜き通りにテントを張ったところから始まった。食料品やガソリンなどの価格高騰に不満を募らせた人々がそれに加わり、デモ参加者の数はついに2万人に達した。
中東での騒乱になぞらえて、これをイスラエル版「アラブの春」と呼ぶ者もいる。ネタニヤフ首相は最初こそ事態を軽く見ていたが、後に長期的な改革を約束。だが、抗議者たちを解散させることはできなかった。
労働者総同盟ヒズタドルートのトップは、政府が物価を下げて低中所得者層の生活を守る努力をしなければ、全国規模のデモに踏み切ると迫った。
数年前まで、テルアビブの物価は世界的にみればそこそこの水準だった(主要都市の物価ランキングで40位近辺)。だが03年以降、順位は次第に上がり、昨年はある調査で19位に。東京やモスクワよりは安いが、ニューヨークよりも高いという。
イスラエルでは巨額の安全保障支出のせいで税金が欧米より高いからという説明が一般的だ。なかでも悲惨なのは自動車で、100%の購入税がかかるため新車はアメリカの2倍も高い。
しかし、国防予算は70年代以降激減し、昨年はGDPの6.3%程度にとどまっている(アメリカは約4.7%、フランスやイギリスは3%未満)。一方でヨルダン川西岸への入植費用や、ユダヤ教超正統派への福祉予算は膨らんでいる(労働年齢にある超正統派の男性のかなりの数が、国から生活費をもらって宗教を学んでいる)。
イスラエル経済に関する著書もあるデービッド・ローゼンバーグは、政策に圧力をかける強力なロビーの存在を指摘する。「入植費用のはっきりした数字は分からないが、税金を押し上げているのは確かだ」
国が小さく人口が800万弱と少ないため、主要産業にほとんど競争がない点を理由に挙げる経済学者もいる。その結果、ビジネスは少数の者に牛耳られる。「15〜20ほどの一族がイスラエル経済をほぼ支配している」とバルイラン大学の経済学者ダニエル・レビは言う。
デモ参加者たちの要望をかなえるには経済の抜本的な改革が必要だ。しかし金利は歴史的に低い水準にあり、不動産価格や賃貸料は上昇を続けるだろう。デモによる需要の伸びに応じて、テントの価格まで上昇中だ。
[2011年8月10日号掲載]