最新記事

インド

「金持ち国家」の誤解で滞る国際援助

海外メディアが成功したビジネスマンばかりを取り上げるお陰で、もう援助なんか卒業だろうと見られてしまう悲劇

2011年8月16日(火)17時22分
ジェーソン・オーバードーフ(グローバルポスト・ニューデリー特派員)

繁栄からは遠く 北部の豊かな都市チャンディガルで水不足を抗議する貧困層(09年) Ajay Verma-Reuters

 経済成長が急速に進み、次々と億万長者が生まれるインド。先進国が今までどおりこの国に経済援助を続けることは、果たして理にかなっているのだろうか。

 アメリカの大富豪に資産の半分を寄付しようと呼び掛ける社会貢献運動を展開するビル・ゲイツとウォーレン・バフェットは、最近インドを訪れた。この国の富裕層に、慈善活動への寄付を増やすべきだと説くためだ。

 経済成長の一方で、膨大な人口を抱えるインドでは依然として貧困と病気との闘いが続いている。繁栄は農村部の住民たちにまでは行き渡っていない。

 巨額の国際援助が有効に活用されていないのも原因だ。最近の会計検査院の発表によると、公共事業計画で不手際があり、昨年は約200億ドルの援助金が放置された。

 かといって、援助金が不必要だったわけではない。都市開発に50億ドル、農村開発に20億ドル、上下水道整備20億ドルなど、国内16地域の重要問題に使われるはずだった。単に官公庁が怠慢だったのではと指摘されている。

 一方、貧困との闘いの最前線では、資金の調達に苦労しているのが実情だ。「欧米ではフォーブス誌の長者番付に登場したインド人とか躍進するインドIT産業とか、景気のいい話ばかり報道されている」と、国際人道支援団体ワールドビジョン・インディアのアーナンド・ジョシュアは言う。「悲惨な状況は伝えられていない」

 実際、80年代には世界最大の被援助国だったインドは、最近ではアフガニスタンやアフリカに資金提供をするまでになった。

 こうした状況を受け、イギリスは事業援助を15年まで年間2億8000万ポンドに凍結し、対象を最貧地域のみに絞ると発表。アメリカやオランダも援助を大幅に縮小した。

 その結果、支援団体は「重大な資金難」に直面しているという。日刊紙タイムズ・オブ・インディアによると、援助団体オックスファム・インドの今年の資金は必要額の3分の1以下で、オランダのNGOヒーボスはインド向け予算を40%カットしたという。

「インドには十分富がある、だから貧しい国民の面倒くらい自分で見られるだろう、とよく言われる」とジョシュアは言う。何とか捻出してもらった援助金さえ政府がまともに使えないようでは、外国からの資金援助は先細りになる一方だ。

GlobalPost.com特約

[2011年4月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中