環境保護が地球の未来を潰す?
一方で余暇の時間は増えている。大半の先進国で年間労働時間は19世紀末から大幅に減少し、約半分になった。特に過去30年間ほどで仕事量と家事労働が軽減され、男性も女性も長い余暇を楽しめるようになった。
現在、世界の平均寿命は68歳だが、1960年には52歳、1900年には30歳にすぎなかった。公衆衛生の改善とイノベーションのおかげで、人類ははるかに長生きになった。
私たちが目覚ましい進歩を継続してこられたのは、豊かな未来のためのイノベーションと投資に全力を注いできたからだ。深刻な問題もまだ残っているが、未来は大いに有望に見える。
国連は今世紀の100年間で人類は14倍豊かになると予測している。途上国の場合は平均24倍という驚異的な予測だ。
同じ国連の予測によれば、平均寿命も今世紀末までに85歳まで延び、ほとんどすべての人が読み書きができ、食料、水、衛生状態に困らない生活を送れるようになる。決して暗い未来とは言えないはずだ。
だが、この素晴らしい進歩を喜ぶどころか、嫌悪する人々も多い。彼らは人類の進歩を認めず、そこから学ぼうとせず、自分たちの「持続不可能」な生活をくよくよ思い悩んでいる。
確かにこれまでは進歩の歴史だったが、今後はそうはいかないと主張する人々もいる。その理由は──現在の私たちが環境を破壊しているからだ。
だが本当にそうなのか。ここ数十年で豊かな国々の大気ははるかにきれいになった。70年代と比べ、ほぼすべての先進国で大気汚染も水質汚染も改善されている。ロンドンは昔からスモッグと汚染で悪名高い都市だったが、今の大気は中世以降で最もきれいな状態にある。
現在の世界で特に汚染が深刻なのは、北京やニューデリー、メキシコ市といった途上国の巨大都市だ。しかし、昔から汚染は豊かさと同時に進行する現象だった。1930〜40年代のロンドンは今の北京よりずっと汚染されていた。
その後さらに豊かになった先進国は、徐々に環境の浄化に取り組めるようになった。既に豊かな途上国の一部でも同じことが起きている。
メキシコ市の大気汚染が改善されつつあるのは、まさに技術力の向上と豊かさのたまものだ。水質の改善も進んでいる。森林についても、食糧確保のために焼畑農業が行われる貧困地域では消失が続くが、豊かな国では再生が進みつつある。
現在、環境絡みのあらゆる議論は「温暖化の亡霊」に振り回されている。各地で大気や水がきれいになり、森林が再生されても、温暖化が止まらなければ意味がないと見なされる。
確かに化石燃料の大量消費によって温暖化が進行すれば、多くの環境問題は悪化し、一部の貧困地域では栄養不良や疾病との闘いに遅れが出そうだ。だが今は温暖化の影響を誇張し、破滅のイメージを振りまいて恐怖心をあおる傾向が強過ぎる。