環境保護が地球の未来を潰す?
持続可能性とは何なのか
例えば二酸化炭素(CO2)の排出削減について考えてみよう。化石燃料の使用量を減らせといくら叫んでも、手頃な価格で効率的な代替エネルギーが開発されない限り、CO2の大幅な排出削減は望み薄だ。
しかし現状では、代替エネルギーの開発はほとんど進んでいない。大きな注目を集めている風力や太陽光は安価な化石燃料に比べ、依然としてコストが高く、エネルギー効率が悪い。
風力は世界のエネルギー利用の0.3%、太陽エネルギーは0.1%を占めているにすぎない。効率の問題を考えても、例えば風力発電だけでエネルギー需要を満たそうとすれば、世界の大半の国では国土を風力発電タービンで埋め尽くさなくてはならない。しかも蓄電技術がまだ十分進歩していないから、風が吹かない日はお手上げだ。
この現状を打開するためには、多くの技術分野で大幅な改良が必要になる。つまり持続可能な温暖化対策を推し進めたければ、代替エネルギーの研究開発にもっと真剣に投資しなくてはならない。そうすれば将来の世代にも、少なくとも今の世代と同程度の可能性を残せるだろう。
そもそも持続可能性とは、どういう意味なのか。最もよく引用されるのが、国連の「環境と開発に関する世界委員会」が24年前に発表した報告書『地球の未来を守るために』の理念だ。
それによれば、持続可能な開発とは「将来の世代のニーズを満たす能力を損なわずに、今日の世代のニーズを満たすような開発」を指す。つまり、問題は現在と同レベルの可能性を将来の世代に残せるかどうかだ。
ここで1つ疑問が生じる。これまでの人類は持続不可能な生活をしてきたのだろうか。
いや、これまで人類はほぼすべての面で、子孫のためにより良い条件を残してきたはずだ。人類は過去200年間で史上最も豊かになった。平均的な個人が消費可能な1人当たりの生産量は平均8倍になっている。
貧困層の割合は過去60年間にその前の500年間よりも大きく減少した。中国だけでも2010年代に2億人が貧困から脱する見込みだ。25年前、途上国の2人に1人が貧困層だったが、今は4人に1人に減っている。
途上国にはまだ問題も多いが、以前よりはるかに豊かになった。1人当たり実質所得も1950年から5倍に増えている。
所得だけではない。教育水準も世界中で大きく向上した。途上国の非識字率は20世紀前半生まれの世代では約75%だったが、現在の若い世代では12%にまで減少している。
きれいな水と衛生的な生活が手に入るようになり、人々の健康状態と収入も改善した。国連食糧農業機関(FAO)によれば、1950年には50%以上だった栄養不良の人口も、今日では16%まで減っている。