最新記事

独占インタビュー

IMFセックス疑惑のメイドが独占激白
【第2回】「私は嘘などついていない」

IMF前専務理事ストロスカーンを性的暴行容疑で訴えた客室係が本誌だけに語った事件の一部始終

2011年7月27日(水)19時02分
クリストファー・ディッキー、ジョン・ソロモン

 スイートルームから走り出たディアロは、廊下の先を曲がって清掃用具置き場近くに身を隠し、気持ちを落ち着かせようとした。「立ちつくしながら、唾を吐き続けた。一人ぼっちで、とても怖かった」

 やがて2806号室から男も出てきて、エレベーターの方へ歩いて行くのが見えた。「あんなに早く服を着られるなんて。ちゃんと鞄も持っていた」とディアロは語った。

「彼は、こんな感じで私の方を見た」。ディアロは頭を斜めにして、まっすぐ先を見つめるようなしぐさをした。「彼は何も言わなかった」

 事件の始まりから終わりまで、時間にして15分もかからなかった。あるいはもっと短かったかもしれない。ストロスカーンの通話記録を把握しているある人物によれば、ディアロが2806号室に入ってから9分後、ストロスカーンは自分の娘に電話を掛けている。

 2820号室に客室清掃用の道具を置いたままだったディアロは、後にそれを取りに行き、再びストロスカーンの部屋へ戻った。ついさっき自分が襲われた現場だというのに。動揺しながらも、いつも通りの行動を取ることで平静を取り戻そうとしたのかもしれない。

「私は部屋に戻った。掃除しないといけなかったから」と、彼女は説明した。それでも、どこからどう掃除すればいいのか、頭が働かなかった。「私はとても、とても・・・・・・。もう、どうしていいか分からなかった」

 ディアロの証言の信憑性に疑念を抱き始めた検事たちは、一連の出来事が起きた順序を問題にした。彼らの話によると、ディアロは大陪審に対して当初、襲われた後は廊下に隠れていたと言っていたのに、後に話を変えて、襲われた後に2820号室へ戻って掃除をし、さらにストロスカーンの部屋も掃除したと言い出した。

 これに対して、ディアロは証言を変えたりしていないと主張。ホテルの部屋への出入り記録は、彼女が本誌に語った話を裏付けている。

大統領選前の最後の乱交

 ディアロが語る事件の詳細の多くは、事件の5時間後に病院の医師が彼女を診察した際に作成したカルテと一致する。例えば、彼女がストロスカーンにつかまれたと主張する膣の周辺部分については、カルテに「赤くなっていた」と記されている。カルテには「左肩に痛みを感じる」とも書かれているが、数週間後にもう1度診察を受けたところ、靭帯の一部が切れていたとディアロは語っている。

 ストロスカーンの弁護人らがディアロのカルテと主張の矛盾点を挙げるとすれば、ストロスカーンが服を着て部屋を出たこと、そして「事件の間、彼女に何も言わなかった」という点だ。ディアロは警察に対しても本誌に対しても、襲われた最中にストロスカーンが発した言葉を複数語っている。検察側が起訴を取り下げずに訴訟が始まれば、ストロスカーンの弁護人たちは彼女の記憶をめぐる矛盾点や自分の過去を偽っている疑惑、事件後に電話をかけた獄中の男など怪しげな男たちとの関係などをやり玉にあげるだろう。

 ディアロは廊下に身を潜めていた時に、見回りに来た上司に出くわした。上司はディアロが動揺しているのを見て、何かあったのか尋ねた。「もし仕事の最中に誰かに犯されそうになったらどうする?」とディアロは彼女に聞いた。部屋で襲われたことを話すと上司は怒りを露にして、「あの客は確かにVIPだけど、そんなことどうだっていい」と言ったという。

 やがてもう1人の上司がやって来て、その後にホテルの男性警備員2人が来た。警備員の1人はディアロにこう言ったという。「自分だったら警察に電話するね」。ディアロが1人目の上司に事件について語ってから約1時間後の午後1時半ごろ、ホテルは警察に連絡した。

 検察側は、事件の前夜にストロスカーンからセクハラを受けたというホテルの案内係の女性を突き止めている。さらに、午前1時26分にストロスカーンと同じエレベーターに乗り込んだブロンドのアメリカ人女性も特定した。キャリアウーマン風の彼女は、ストロスカーンと合意の上の関係にあったようだ。フランスの週刊誌ルポワンの報道によれば、ストロスカーンは妻アン・シンクレアに対して、事件の前日と当日に3人の女性とセックスをしたことを認め、「大統領選を始める前の最後の一杯」だと語ったという。

【第1回】「男は私に襲いかかった」
【第3回】発情したチンパンジー

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ約300ドル安・ナスダ

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中