最新記事

対テロ戦争

ビンラディンより凶暴な後継者の正体

大量破壊兵器でアメリカを攻撃することに執念を燃やし、CIAが必死で追うザワヒリの冷酷過ぎる素顔

2011年6月17日(金)17時12分
C.M.セノット

復讐のとき ネット動画で、ビンラディン殺害の報復を誓うザワヒリ。撮影場所は不明(6月8日) Reuters TV

 パキスタンで殺害されたウサマ・ビンラディンが潜伏していた住居で、米海軍特殊部隊SEALsは「宝の山」を発見した。膨大な数の文書やパソコンのハードドライブにCD、そして私的なメモなどだ。

 これらの押収物は現在、バージニア州ラングリーのCIA(米中央情報局)本部で精査されている。倉庫ほどの大きさの科学捜査ラボで、100人以上の分析官が片っ端から調査。彼らが必死で探しているのは、ビンラディンに代わる「世界一のお尋ね者」、アイマン・アル・ザワヒリにつながる情報だ。

 国際テロ組織アルカイダは16日、ナンバー2を務めていたザワヒリがビンラディンの後任として最高指導者に就任したと発表した。エジプト生まれの医師であるザワヒリが現在、どこに潜伏しているかは分かっていない。ただその人物像は、恐ろしく冷酷な男として知られる。ビンラディンのようなカリスマ性には欠けるが、指導者としての手腕がある。傲慢でうぬぼれが強く、ビンラディンにあったとされた信心深さはないと言われる。

 冷淡なザワヒリには、かねてから明確な目標がある。大量破壊兵器(WMD)、もしくは放射性物質を拡散するダーティ・ボム(汚染爆弾)を使ってアメリカを攻撃することだ。米テロ対策当局者やザワヒリに詳しい専門家らによれば、ザワヒリは少なくともこの3年間、WMDによる攻撃遂行のための技術的・科学的な基盤づくりを水面下で進めてきた。

 ザワヒリは08年には、対アメリカ核攻撃についての根拠や、アルカイダによる大量殺人の正当性について宗教的な自論を展開した本をしたためた。この本からは、ビンラディンより野心家だと言われるザワヒリの狂信的な一面が見えてくる。ザワヒリは、死者数と破壊力で9・11を上回る「壮大な」テロ攻撃を仕掛けようとしていた。

アルカイダ分裂の可能性も

 CIAのWMD部門やテロ対策部門を率いた経験のあるロルフ・モワットラーセンは、ザワヒリ個人と、ザワヒリによるダーティ・ボムを使ったテロ計画に特化して調査してきた。「ザワヒリはビンラディンよりも実戦志向で、WMDを使った攻撃もしくは次の大規模テロを個人的に主導しているとみられる」と、モワットラーセンは言う。

 96年〜99年までCIAのビンラディン担当部署を統括したマイケル・ショイアーは、ザワヒリにはいくつかの欠点があり、それによってアルカイダが分裂する可能性もあると語る。「彼はアルカイダを長期にわたって統率できる男ではない。頭が切れ、人を見下したような態度をとる。エジプトは古代文明をもつ国だと言わんばかりの、実にエジプト人らしい男だ。とにかく人を苛立たせるタイプだ」

 これはザワヒリを個人的に知る人々の共通した見方で、エジプト人弁護士のモンタッサー・エル・ザヤトもこの考えに同意する。エル・ザヤトはホスニ・ムバラク大統領時代の80〜90年代に繰り返し検挙され、拷問を受けたエジプト人イスラム過激派を多く弁護してきた。ザワヒリもその一人だ。

 その著書「私の知るアイマン・アル・ザワヒリ」の中で、エル・ザヤトはザワヒリを批判し、その無慈悲さと頑固さを強調している。最近も「彼は傲慢だ。自分がいつも正しいと考えている......だがそれが結局、彼の弱点でもある」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中