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スキャンダル「IMFトップを転落させた女」を追え
性的暴行容疑で訴追されたIMFのストロスカーン専務理事に対するアメリカの「野蛮」な扱いに批判が高まるフランスで、被害者の女性の名前や写真が容赦なく公開
グレーな境界線 IMFのストロスカーン専務理事のスキャンダル報道で米仏の文化ギャップが浮き彫りに Gonzalo Fuentes-Reuters
IMF(国際通貨基金)のドミニク・ストロスカーン専務理事がマンハッタンのホテルで32歳の女性従業員に性的暴行を加えたとされる事件は、男と女とレイプをめぐるフランスとアメリカの深い亀裂を浮き彫りにしている。
IMFのトップを務め、2012年のフランス大統領選の最有力候補だったストロスカーンに対するアメリカの扱いは、フランス人の目には「下劣」そのものに映る。
手錠姿の写真を公開したことや、カメラマンが居並ぶ中でストロスカーンを裁判所まで連行したことは、フランス人に言わせれば「野蛮」極まりない行為。フランスでは、有罪が確定するまで手錠姿の写真を公開しないなど、報道に一定の制限が課せられている。国を代表する著名人がタブロイドメディアの格好の餌食にされたことに、同国のエリート層は激怒している(ニューヨーク・ポスト紙は、ストロスカーンを「卑劣な好色男」と評した)。
名門ルモンド紙まで女性の実名や交友関係を報道
もっともフランスのメディアも、アメリカのジャーナリズムでは重罪とみなされる行為を平気で行っている。レイプ事件の被害者の実名報道だ。
週刊誌パリ・マッチは「(被害者の名前)、ストロスカーンを転落させた女」というタイトルで被害者の実名を報じた。記事の冒頭では被害者に同情的な論調で、「内気で思慮深い」ホテル従業員としてプロフィールを紹介。勤務先のホテル「ソフィテル」での人事評価は5段階中の4・5で、ホテル側は「彼女の仕事ぶりや行動には完全に満足していた」と伝えた。さらに、事件について嘘をつくような人物ではないとする、友人の証言も引用している。
その後、記事は次第に下世話な話題へと移行する。被害者のルックスについては「評価が多岐にわたる」とし、ストロスカーンの弁護団は彼女のことを「あまり魅力的でない」と評したと暴露。さらに「ソニー」という名前のインド系タクシー運転手による下品な噂話レベルの証言に基づいて、被害者のルックスを詳しく描写している。
フランスを代表する名門ルモンド紙も、被害者の詳しい経歴とともに母国ギニアでの名前とアメリカ名を公開。さらに、彼女がエイズ患者向けアパートに住んでいるというニューヨーク・ポストの報道を引き合いに出しつつ、彼女自身はHIVに感染していないという知人らの証言を引用した。彼女の兄とされている男性は実は恋人だという、女性の友人の証言も紹介している。
フェースブック上の偽写真を掲載
プライバシーなど気にする様子もないフランスメディアの次なる狙いは被害者の顔写真。各社が競って写真を入手しようと躍起になっているが、先週末時点では成功していない。
ニュース週刊誌ヌーベル・オプセルバトゥールは、ネット上に出回っている複数の写真を検証する記事を掲載した。同誌によれば、流出した写真の1つは被害者のものとされるフェースブックのプロフィールで使われていたもの。フランスの地方紙が掲載したが、後になって偽のプロフィールだと分かったという。
「複数のソースによって被害者、または彼女の娘と確認された」とされる写真もあるが、映っているのは「まばゆいばかりの若い女性」。この写真はアフリカで広く出回っているという。
もっと信ぴょう性に欠けるのは、舞踏会でタキシード姿の夫の横に立つ、黒いイブニングドレスの女性の写真。ヌーベル・オプセルバトゥールによれば、これは1975年に撮られた写真で、被害者と同じファーストネームとラストネームを持つセネガル人女性作家だという(ただし、ミドルネームは異なる)。この写真の説明書きは、「(被害女性の実名)、ニューヨークに到着」とされていた。
一方のアメリカでは、レイプ事件の被害者の実名は報じないというメディアの伝統と、フランス語の壁が相まって、今のところ女性の匿名性はほぼ守られているようだ。ただし、彼女の住むアパートや、彼女の兄(または恋人)が働くカフェにはカメラマンが殺到している。
(GlobalPost.com特約)