最新記事

エネルギー

北極の「お宝」を狙うデンマークの野望

地球温暖化のおかげで北極の海底資源獲得を狙う領有権争いに拍車がかかり始めた皮肉

2011年5月20日(金)15時36分
フランク・ラドセビッチ

争奪戦 領有権を主張する閣僚たち(左から)デンマーク、ロシア、ノルウェー、グリーンランド、カナダ、アメリカ、グリーンランド(08年) Jan-Morten Bjoernbakk-Scanpix-Reuters

 デンマーク政府は北極圏の領有権を主張する──今週流出したデンマーク外務省の文書によって明らかにされた。これで北極圏をめぐる各国の争いがさらにヒートアップしそうだ。

 デンマークの主張は突如降って沸いた話のように聞こえるかもしれない。だが実際には、昨日今日の思いつきではない。北極を手に入れれば、棚ぼた式に大金が転がり込んでくる可能性がある。温暖化の影響で北極海を覆う氷河が溶け出すなか、海底の採掘が容易になるからだ。

 流出した文書からは、デンマークがフォロエ島とグリーンランド近くの大陸棚における5つの地点で領有権を主張していることが分かる。そこに北極点も含まれていた。フォロエ島とグリーンランドはどちらも自治権をもつデンマーク領だ。

 レネ・エスパーセン外相は17日、この文書について直接的なコメントを拒みつつも、デンマークが領有権を主張するのは「新しいことではない」と語った。デンマークは北極圏領有に向けた政策をどう進めるべきか、現在検討中だと認めた。「デンマークは北極点を含む海底の領有権を立証するだろう。だが目的は北極点そのものではない」

 北極圏の領有を主張するのはデンマークが初めてではない。北極圏に接している各国、ロシア、アメリカ、カナダやノルウェーなども海底に目印を作るなどして領有権を主張してきた。07年8月には、ロシアの小型潜水艦が北極点の海底にロシア国旗を立てた(識者らは幼稚な行為だと一蹴した)。

氷河融解でポテンシャル拡大

 なぜ北極点を目指す各国の争いに拍車がかかっているのか。その理由は、氷河が溶けることで新たな航路や漁業区域が生まれたり、原油など天然資源の採掘の可能性が開けるからだ。米国国立雪氷データ・センターによると、毎年9月に観測される北極圏の氷河の割合は、衛星による記録が始まった79年以降、10年ごとに平均11%以上ずつ縮小している。

「われわれが見ているのは新しい北極だ」とスウェーデン防衛研究局のニクラス・グランホルム副局長は言う。「新しい北極圏は、これまでよりも遥かに大きな可能性を秘めている」

 グランホルムは新しい航路は5〜10年の間に完成し、大西洋と太平洋を往来する時間と費用を大きく縮小するだろうと語る。それでも、今回リークされた文書が各国の対立を招くことはないとみている。各国とも、北極圏をめぐる争いが加速することはとっくに承知の上だったからだ。

 北極点は今のところ緩衝地帯だ。国際法では、その大陸棚に自国の領土と同じような地理的特徴を証明できる国だけが北極圏の領有権を主張できると定められている。各国は国連海洋法条約に基づいて自国の領有を主張することはできるが、実際にそうするかどうかはまだ分からない。そもそもアメリカは、国連海洋法条約を批准していない。

 北極圏にどれだけの原油が眠り、それが海底から掘削可能な場所にあるのか、氷河がどれだけ早く溶けるか──まだはっきりとは解明されていないところもある。それでも、北極点をめぐる争いは留まるところをしらない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中