最新記事

授賞式

国連もノーベル賞より中国が大事?

中国の民主化活動家、劉暁波のノーベル平和賞授賞式に国連人権高等弁務官が不参加を表明。その裏には中国の圧力が見え隠れしている

2010年12月9日(木)16時46分
コラム・リンチ

弱腰 劉暁波を解放するよう中国を説得できなかった潘基文に批判が高まっている Na Son Nguyen-Pool-Reuters

 国連人権高等弁務官(UNHCHR)がノーベル賞授賞式への出席を辞退――例年なら問題にもならないような話かもしれないが、今年は話が別だ。ノーベル平和賞の受賞者が、中国の民主化活動家で収監中の劉暁波(リウ・シアオポー)だからだ。

 出席辞退を発表したUNHCHRのナビ・ピレーの広報担当によれば、授賞式が開かれる12月10日は世界人権デーでもあり、スイスのジュネーブで行われる予定の別のイベントに出なければならないという。ノーベル賞授賞式に出席するため、スイスに代理を送るつもりはないとしている。

 ピレーの欠席は、潘基文(バン・キムン)国連事務総長に対し人権団体からの批判が高まるなかで発表された。今も劉暁波は収監中で、妻の劉霞(リウ・シアン)も夫のノーベル賞受賞が決まってからは自宅軟禁されている。しかし潘基文は、2人を解放するよう中国政府を説得することに失敗。受賞を祝福する声明も出していない。

 劉暁波は1989年の天安門事件にも関わった民主化運動のリーダーの1人。同時に、中国の知識人や人権運動家が政治改革や人権環境の向上を求めて発表した「08憲章」の起草者の1人でもある。

 アメリカ在住の中国人反体制活動家で、ノーベル賞授賞式で劉暁波の代理人を務める楊建利(ヤン・チエンリー)は、ピレーの欠席は高等弁務官としての責任の放棄だと非難した。「中国政府から直接的な圧力を受けたに違いない」

他国の高官に欠席を迫る中国

 特に疑わしいのは、欠席が発表されたタイミングだ。「ノーベル平和賞が発表された後、潘基文と中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の会談が行われた。そこで潘が劉暁波に関する話題に一切触れずに終わった直後、ピレーの欠席が発表された」と楊は指摘する(ニューヨーク・タイムズ紙はこれを潘の「恥ずべき沈黙」と呼んだ)。

 一方のピレー側は、今回の欠席はあくまで世界人権デーのイベントが理由で、中国は無関係だとしている。「彼女にとっては簡単に欠席できる催しではない。今回のイベントでは、これまで無名だった人権擁護者たちに光を当てようとしている。そのために何カ月も前から準備してきた」と、ピレーの広報担当は言う。

 ピレーを支持する人々に言わせれば、彼女はノーベル賞発表の前から、劉暁波に対する中国の姿勢を厳しく非難してきたという。09年に中国の裁判所が劉暁波に対して懲役11年の刑を下したとき、ピレーは中国政府を批判した。

「劉暁波に対する有罪判決と厳しすぎる量刑は、中国で言論の自由への締め付けがさらに強まることを示している」と、当時のピレーは語っている。「人権の保護・促進に対する中国の取り組みに、不吉な影を落とす非情に残念な判決だ」

Reprinted with permission from Turtle Bay, 09/12/2010.© 2010 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中