「官製メディア」新華社の膨張
中国に無関係の記事は正確に
数万ドルの購読料を払えば新華社の記事は読み放題(AP通信やロイターやAFP通信なら10万ドルはする)。それさえ払えないなら、コンテンツも機材もテクニカルサポートも一切合切、無料で提供する援助プログラムがある。
これは中東やアフリカや途上国では魅力的だ。こうした地域では新聞の売り上げが伸び、人々は欧米以外の視点に飢えている。
新華社のニュース配信は視聴率調査会社の対象になっていない地域で行われているので、視聴者数はつかみにくい。それでも最近数カ月間で、キューバ、モンゴル、マレーシア、ベトナム、トルコ、ナイジェリア、ジンバブエの国営報道機関とコンテンツ配信契約を結び、アフリカとアジアの大半で最も多くのスタッフを抱える主要メディアとなった。「文字どおり、どこにでもいる」と、ニューヨークのアジア協会米中関係センターのオービル・シェル所長は言う。
中国に無関係のニュースに関しては情報操作を減らしているのもプラスになっている。「よく読む」と、イスラエルの日刊紙イディオト・アハロノトのダニエル・ベティーニ外信部長は言う。新華社は表現が簡潔で質も向上したと、パキスタンやトルコの編集者にも好評だ。「第2次湾岸戦争(イラク戦争)の報道は非常に良かった」と、トルコの国営通信社の中国特派員カミル・エルドードゥは言う。「新華社は多くの情報を最初に入手した。私は何度も利用した」
AFPと報道写真通信社のEPA通信は先日、新華社の映像や画像を国外に配信することで合意した。映像や画像に関しては「検閲はあまり重要ではないと思う」と、ABCとNBCの元特派員で現在は中国国営の中国中央電視台(CCTV)の顧問を務めるジム・ローリーは言う。「損得が非常に重要だ」。ローリーによれば、「質がまあまあで料金もまあまあ手頃な映像ソースを見つけたら、誰だってアクセスしたいだろう」
今のところ、老舗の通信社は冷静だ。APはコメントを控え、AFPからは締め切りまでに回答がなかった。しかしロイターは、新華社の拡大を「市場の健全さ」のしるしとみている。多くのメディア専門家も同じ見方だ。
新興国における新華社の人気は一過性のもので、民間報道機関がより質の高いニュースにカネを出せるようになれば終わるという。そこで3社とも新興国の報道機関向けには、より手頃なアラカルト方式で(例えば世界のスポーツニュースだけ選べる)ニュースを提供している。
中国の視点という選択肢
しかしこの見方は、プロパガンダ機関という新華社のイメージが今後も変わらないという仮定に基づいている。
ここ数カ月間、新華社はイメージチェンジに取り組んできた。ロンドンに初の書店をオープンし、ユニセフ(国連児童基金)と共同で子供の幸福と健康的な成長を願うリレー報道を世界6大陸で行い、ヨーロッパ各地に公共の液晶テレビを何十台も設置して自社のニュースを流した。
たとえイメージアップできなくても、露骨な偏向報道はハンディにはならない。確かに新華社のアメリカに関する報道は、公平でバランスが取れているとは言い難い。8月に米国防総省が公表した中国の軍事動向に関する報告書については「プロらしくない。曖昧で一貫性がない」と一蹴した。
しかし多くの人にとって、今や中国の視点はアルジャジーラやFOXニュースやMSNBCと並ぶ選択肢の1つにすぎないようだ。アフリカやアジアの新聞編集者は新華社の報道の偏りを米国防総省ほど気にしないかもしれないと、カーネギー国際平和財団の中国専門家であるミンシン・ペイは言う。
むしろ問題は──「ニュース報道は、市場の信認と国家の結束を高めることに貢献すべき」と考える新華社らしいが──彼らの報道が耐え難いほど退屈になりがちなことだ。昨年10月には、首相が小学校を視察した際に「岩の種類を間違え」、そのことを謝罪したというニュースを伝えた。見出しは「首相の岩のように強い責任感に称賛の声」だった。
本当のことが知りたいときは、中国政府関係者でさえ欧米のニュースを読む。それはこれからも、中国以外の国でも同じだろう。
[2010年9月22日号掲載]