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もうプーチンの言いなりにはならない!

12年の大統領選に向け独自の政党や政策を動かし始めたメドベージェフ。プーチン派だった政治家の多くも支持に回り始めた

2010年10月4日(月)17時28分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)

独り立ち プーチン路線から外れた政策を徐々に進めるメドベージェフ大統領 Alexander Natruskin-Reuters

 先週、有力政治家のユーリ・ルシコフをモスクワ市長から解任する大統領令を発令したロシアのメドベージェフ大統領。この出来事はプーチン首相からのメドベージェフの独り立ちと、12年の大統領選の実質的なスタートを象徴するものと考えていい。

 大統領を「決める」権限は国民にはない。大統領候補を決定するような重要な話し合いを進めるのは、クレムリンの奥にいるプーチンの側近たち。メドベージェフはこの中ではまだ下っ端だ。

 だがプーチンの庇護を受けている若いメドベージェフが力を付け始めた兆候がある。何しろ、かつてプーチンを支持していた有力者たちがメドベージェフの再選支持に回りつつあるのだ。

 エリート層がメドベージェフを支持するようになった兆しが見られたのは昨年のこと。メドベージェフがロシアの近代化について画期的な演説を行った後、「前進、ロシア!」という政党が結成されたときだった。

 同党の上層部は呉越同舟といったところ。元KGB(ソ連国家保安委員会)の大物ゲンナジー・グドコフなど旧プーチン派がいるかと思えば、中道右派の小党の指導者だったウラジーミル・ルイシコフら、以前の反プーチン派もいる。

「前進、ロシア!」が政策の下敷きにしているのはメドベージェフの構想だ。経済成長の原動力として石油とガス以外の産業を発展させ、インフラや技術革新、投資を推進すべきというものだ。

 「改革を進めなければ、ロシアは10年後、今の国境を維持できていないかもしれない」と、同党のニキータ・クリチェフスキー副議長は言う。

旧ソ連3カ国の関税同盟よりWTO加盟を重視

 9月に行われた「前進、ロシア!」の会議には国内の56地域から400人が参加した。同党の支持者には有名俳優やテレビ番組の司会者もいる。これは人気政党の証しだ。

 政府の決定を支持するためだけの存在のような与党・統一ロシア(党首はプーチンだ)は「前進、ロシア!」に対抗して、近代化を旗印に掲げた独自の「前進、ロシア!」グループを設立した。

 統一ロシアのボリス・グリズロフ前党首に言わせれば、グドコフにメドベージェフの「前進」という構想を「独り占め」する権利はない。メドベージェフの近代化政策を推進しているのは統一ロシアであり、メドベージェフも統一ロシアを支持しているとする。

 プーチンを支持していた人々が先を争ってメドベージェフ支持に回り始めるなか、ロシアの政治家やマスコミ関係者の間でメドベージェフ人気に火が付く可能性もありそうだ。

 メドベージェフは独自の政策を立案しているが、そのいくつかはプーチンの公式見解とは異なっている。例えばロシアとベラルーシ、カザフスタンの3カ国の関税同盟を拡大させるというプーチンの計画に、メドベージェフは反対しているようだ。むしろWTO(世界貿易機関)加盟を重視すべきだと考えている。

 その一方でメドベージェフはアメリカやNATOとの緊張緩和を主導し、プーチン大統領時代の方針を覆してイランへの地対空ミサイル売却を凍結。プーチンが支持していたモスクワ北部のハイウエー建設も世論に従って中止した。

 モスクワのルシコフ市長を自らの意思で解任したのは、エリート層の有力者が政府に刃向かうなら対決も辞さないというメドベージェフの態度表明でもある。

 メドベージェフは、今もロシアの双頭体制の「弱いほう」だ。しかし多くの政治家がメドベージェフ支持に回っていることを考えれば、名実共にプーチンの後継者になるというメドベージェフの望みが実現する可能性も出てきた。

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