インドにはびこる学校体罰
むち打ちの罰を受けた12歳の生徒が自殺──名門校で起きた事件で浮き彫りになった暴力の文化
インド東部のコルカタ(カルカッタ)に住むラウラ一家は重苦しい沈黙に包まれている。
シーナ・ラウラは数週間前から家に閉じ籠もり、一日中祈祷書を読んでいる。ジュート(インド麻)繊維業を営む夫のアジャイは家族写真を見てばかり。10代の子供2人は毎日読書をするか、友人の家へ行く。彼らの生活に取りついて離れないむなしさを、ほんの一瞬でも忘れるために。
今年2月の金曜日の午後、アジャイとシーナの一番下の息子ロウバンジトは自宅のテラスで首をつって自殺した。1カ月後に13歳の誕生日を迎えるはずだった。
自殺の4日前、ロウバンジトは校則に従わなかったとして校長からむち打ちの体罰を受けた。彼が通っていた「ラ・マルティニエル」はコルカタの名門私立校だ。
あの運命の金曜日、ロウバンジトはおもちゃの爆弾を学校へ持っていき、罰として教室の外に立たされた。今回の一件を調査するインド国家子供権利保護委員会(NCPCR)によれば、自殺の数カ月前から、少年は校長と教師3人に侮辱されるなど身体的・精神的虐待を受けていたようだ。
「校長はむちが折れるほどロウバンジトの背中を打ったこともあると明かした」と、アジャイは目に涙を浮かべて言う。「後悔している様子はかけらもなかった」
体罰禁止の法律はあるが
ロウバンジトの死はインド全土に衝撃を与え、学校での体罰の問題を象徴する例として批判を浴びている。事件が注目を集めているのは裕福な中流家庭に起きた惨事だから。そして創立170年の歴史を持つ国内有数のエリート校を舞台にした事件だからだ。
インド最高裁判所は学校での体罰を禁じている。だがこの国の多くの物事と同じく、法律という理念と施行という現実の間には大きなギャップがある。
インド女性児童開発省が07年に行った調査によれば、国内13州の児童の3人に2人が学校で身体的虐待を受けていた。最も一般的なのが手や棒で殴ったり、髪や耳を引っ張ったり、長時間立たせたままにしておくやり方だという。
「残念ながら、インドの学校にはこの手の虐待を当然と見なす歴史と文化が根付いている」と、NCPCRのロブ・ベルマ事務局長は電話で語った。「人々の考え方を変えていかなければならない」
ラ・マルティニエルのスニルマル・チャクラバルティ校長に辞任する気はない。謝罪を表明しているものの、むち打ちと自殺は無関係だと主張。インディアン・エクスプレス紙にこう語った。「なぜ辞任しなければならないのか。私は教育者で、犯罪者ではない」
インドのメディアでは、複数の著名人がチャクラバルティを擁護する発言をしている。シダルタ・シャンカール・レイ元西ベンガル州首相に言わせれば、むち打ちは大人になるためのステップだ。
ロウバンジトの自殺は、教師と保護者と生徒の間でのコミュニケーション改善を図るべきだとの論議も巻き起こしている。
「あの子は黙って耐えた」
1クラスの平均生徒数が60〜70人に上るインドの学校では、教師にかかるストレスが大きい。その一方で、就学前教育の段階から激しい入学競争にさらされるため、多くの親は退学処分を恐れて学校側に意見を言おうとしない。
警察とNCPCRの最終報告書を待つラウラ一家の苦悩は日ごとに募っているようだ。
「数人の教師に数カ月にわたって心を傷つけられながら、ロウバンジトは黙って耐えた」と、おばのアヌ・ナブラカはラウラ家の居間にある等身大のロウバンジトの写真を見詰めて語った。「私たちを傷つけたくなかったから何も言わなかった。親族全員があの子を失ったことに打ちのめされている」