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崩壊国家北朝鮮、ホラー医療の証言
ろうそくの明かりの下で麻酔なしの手術は当たり前。「人民の医療は無料」を誇る金正日体制の恐ろしい実態
「わが人民にかかる医療は無料」。それが長年にわたる北朝鮮の国是だ。だが、このほど国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが脱北者を対象に行った聞き取り調査(7月15日に公表)から、この国の医療の恐ろしい実態が浮かび上がった。
調査に応じたのは、40人余りの脱北者。証言によると、病院には電気も暖房もなく、診療はろうそくの明かりを頼りに行われている。最低限の医薬品も常備されておらず、切断手術が麻酔なしで行われることもある。
咸鏡北道出身の24歳の男性フアンは、00年に走行中の列車から転落し、くるぶしの骨がつぶれた。医師はふくらはぎから下を切断する必要があると判断し、手術を行った。
「看護師5人に手足を押さえ付けられた」と、彼はアムネスティに語っている。「あまりの激痛に悲鳴を上げ、気を失った。病院のベッドで意識が戻ったのは1週間後だった」
フアンは、麻酔なしで手術を受けた患者をほかにも知っていると語っている。栄養不足によるなども多いため、切断手術は頻繁に行われているという。
政府が「医療は無料」とうたっても、人々は市販の薬を買わなければならない。「北朝鮮の人々は金がなくても、診療を受けられると思って病院に行く」と、03年に北から逃れたソンは語る。
「医師は診察だけして、薬は市場で買えと言う。病院には薬がない。医師が生活のために、薬を持ち出して売ってしまうからだ。病院を辞めて、市場で薬を売っている医師や看護師もたくさんいる。病院で働くより金を稼げるからだ。彼らも生きていかなくてはならない。だから結果的に、市場の薬売りは医学の知識を持っている」
食糧難も再確認されて
アムネスティの調査報告書は食糧不足にも触れている。アムネスティは90年代に北朝鮮を見舞った飢饉で100万人以上が餓死したと推定しており、それが今回の調査で再確認できたという。
90年代の飢饉のとき、北朝鮮当局は「1日2食」運動を展開し、木の皮や根、草を食べるよう呼び掛けた。国連が96年に発表した報告書は、こうした食事が全体の3割程度を占めていたと推定している。現在でも食糧は配給制で、不作の時期には配給が完全に止まることもある。
当局は食糧危機を緩和するため、00〜04年には市場での農産物の取引を容認した。だがその後、自家消費用の作物栽培を禁止し、作物の生産と取引の担い手である女性に労働を禁じた。
咸鏡北道出身の39歳の女性の話では、3人家族の彼女の家に配給される穀物は、90年代の飢饉の時期に1日700グラムから450グラムに減った。「月にトウモロコシ15キロ、コメ1〜2キロの配給があった。生活費の足しにするため、トウモロコシから酒を造って売った。トウモロコシの搾りかすも食べた。苦くて食べにくいが、それで空腹を紛らすしかない。トウモロコシの皮は豚の餌にした。私たちは豚も市場で売って、わずかな現金収入を得ていた」
今も消化器の異常や栄養失調に苦しむ人は多いとみられる上、餓死者が多数出ていることは多くの調査で確認されている。だが、この国はまだまだ外部に対して閉ざされており、正確な実態を知るのは難しい。
国民の困窮をよそに、グルメで名高い金正日(キム・ジョンイル)総書記は、世界中から取り寄せた高級食材を堪能しているという。
[2010年8月 4日号掲載]