「機密流出」タリバンの復讐が始まった
内部告発サイト「ウィキリークス」に米軍協力者のリストが流出。タリバンの報復作戦にアフガン国民は戦々恐々
容赦なし 地元民による連合軍への密告にタリバンは怒りを募らせてきた(4月3日、燃え上がるドイツ軍の車両とタリバン兵士) Reuters
7月25日、民間の内部告発サイト「ウィキリークス」に、アフガニスタン駐留米軍の機密文書が大量に流出すると、反政府武装勢力タリバンはすぐに反応した。文書の中に、米軍に密かに協力してきた地元民や村の名前が含まれていたからだ。
タリバンの広報担当者はすかさず、タリバンを封じ込めようとするアフガニスタン当局とアメリカに「協力」したとされるすべてのアフガニスタン人を「罰する」という脅し文句を口にした。実際、この数日の彼らの動きを見ると、それが単なる脅しでないことがよくわかる。
文書流出からわずか4日後、アフガニスタン南部の部族の長老らの自宅に暗殺予告が届きはじめた。先週末には、米軍と緊密に接触していたとされる長老カリファ・アブドラが、カンダハル州アルガンダブ地区の自宅から連れ去られ、タリバン兵士に銃殺された。
「5日以内にアフガニスタンを去れ」
これは恐怖の報復作戦の序の口にすぎないのかもしれない。カンダハル州政府のアガ・ラリ副知事によれば、パンジワイ地区の長老70人にも脅迫状が届いたという。彼らの名前がウィキリークスの文書に含まれていたかどうかは不明だが、彼らが米軍やアフガニスタン政府への協力者だとタリバンが確信しているのは明らかだ。
本誌記者が見た脅迫状には、手書きでこう記されていた。「お前の死を決定した。5日の猶予をやる。その間にアフガニスタンを去らなければ文句を言う権利はない」
便箋には、タリバンの最高指導者ムハマド・オマルが率いた今はなき「アフガニスタン・イスラム首長国」の紋章が記されており、
タリバン幹部のアブドゥル・ラウフ・ハディムの署名もあった(ハディムはキューバのグアンタナモ米海軍基地に収容されていたが、昨年アフガニスタン当局に身柄を引き渡され、その後脱走した)。
タリバンの広報担当者の脅し文句と長老アブドラの殺害、さらに大量の脅迫状という恐怖が重なったことで、アフガン政府やアメリカと親しくしてきた多くの国民がパニックに陥っていると、情報活動に従事するタリバン高官は語った(安全上の理由で匿名を希望)。彼によれば、この数日間、アフガニスタン南部や東部にある米軍と連合軍の基地に、保護や政治亡命を求めるアフガニスタン人が殺到しているという(米軍関係者はこの情報を確認していない)。
さらにこの高官によれば、タリバンの英語メディア担当部署はウィキリークスに掲載された情報の検証を続けており、地元の司令官らが「殺害予定者リスト」を更新できるよう州ごとの「米軍協力者リスト」を作成しているという。
住民と連合軍の絆が断ち切られた?
今回の情報流出を機に、アフガニスタン国民は連合軍への協力に一段と慎重になるのだろうか。当然ながら、前出のタリバン高官はそうなると考えている。「今回の一件はわれわれにはプラスだが、米軍への協力者には手痛い打撃だろう。アメリカはスパイを手厚く保護してくれない」と、彼は言う。
敵側に付いた人間に対してタリバンが容赦ない報復をすることは、地元では昔からよく知られている。冷酷なゲリラ部隊に殺害された人は、数百人とまでは言わないが、膨大な数にのぼる。
数カ月前には、アメリカに情報を流していたガズニ州の若者の一団がタリバンに捕えられ、そのうちの10人ほどが絞首刑にされるという悲惨な事件もあったという。また、村人がタリバン兵士の居場所を連合軍に知らせないよう、夜間は携帯電話の通信網が切断されている。