キルギス「独裁による安定」の幻想
きっかけは、バキエフがマナス空軍基地を閉鎖するとの条件付きでロシアから3億ドルの支援を受け取りながら、米軍に基地の使用期限延長を認めたこと。バキエフは、ロシアのウラジーミル・プーチン首相を敵に回した。
「ロシアはキルギスの出来事とは無関係だ」。プーチンは4月7日の記者会見でそう語った。この言葉はおそらく真実だろう。ロシアがマナス空軍基地の閉鎖の実現に失敗したことを考えれば、キルギスに対するロシアのソフトパワーに限界があったことは明らかだ。
安定した民主主義国家へ
プーチンは会見で、手負いのバキエフの傷に塩を塗り込むことを忘れなかった。「バキエフは数年前、前任者の縁故主義を激しく非難して大統領に就任したが、結局同じ失敗をしたようだ」
とはいえ国際社会で最大のバキエフ批判派だったロシアが、その事実を利用して影響力を拡大する機会も限られている。
昨年6月、マナス空軍基地の使用継続でキルギス政府と合意したアメリカは今や1年当たり6000万ドルの使用料を払っている(従来は1710万ドル)。合意の際には、経済発展や麻薬撲滅活動のためアメリカが1億1700万ドルを支援することも決定。キルギスの歳入の大部分を占める金額だ。
臨時政府を率いるローザ・オトゥンバエワ元外相や野党指導者のテミル・サリエフがあからさまな反米姿勢に転じるとも考えにくい。アメリカ大使館は過去1年以上にわたり、サリエフやその支持者を拘束したキルギス当局を非難してきた。米政府系の放送局、自由欧州放送は今も大半のキルギス国民が最も信頼する情報源だ。
今回のデモの直接の原因は極めて「ローカル」なものだった。バキエフ一族の支配下にあった公益企業による電気・暖房料金の大幅値上げへの抗議だ。
だが、キルギスの教訓はグローバルな意味を持つ。バキエフは3月、議会でこう演説した。選挙や人権に基づく民主主義はキルギスに「もはやふさわしく」なく、代わりに「評議会制民主主義」を採用すべきではないか──。これを聞いた一般市民は民主主義の範囲が狭まれば汚職が増えると考え、抗議のため街頭へ繰り出した。
新たな政権はバキエフが学ばなかった教訓を胸に刻むだろう。彼らならキルギスを、中央アジアで初の安定した民主主義国家に変えられるかもしれない。そしてアメリカは彼らに力を貸さなければならない。理念上の理由からも、現実主義的な理由からも。
[2010年4月21日号掲載]