米政府が育てた銃も撃てないど素人警察
ダインコープの元幹部は、訓練の具体的な目標について国務省に何度も問い合わせたが、はっきりした返事はなかったと言う。「どういう成果が求められているのか、どういう基準なのか説明してほしいと頼んだが、明確な構想は示されなかった」
一方、ジョンソン国務次官補は「訓練プログラムは、専門家が作成した明確なカリキュラムに基づいたものだ」と言う。「現地にいる監督スタッフの数だけで判断してもらっては困る。ワシントンに強力なサポート体制を敷いているのだから」
民間会社の教え方が悪かった?
新たな問題が次々に起きたのは昨年夏のことだ。治安部隊育成を指揮しているコールドウェルの前任者リチャード・フォーマイカ大将は、国防総省が直接に訓練の契約を取り仕切るべきだと決めた。煩雑な入札手続きを簡略化するために、彼は警察訓練の業務を米陸軍の宇宙ミサイル防衛軍団が仕切る既存の麻薬・テロ対策プログラムに組み込むことを提案した。
入札できるのは同軍団と契約実績のある企業に限られ、ダインコープは排除された。結果、応札したのはノースロップ・グラマンとゼー・サービシズ(かつてイラクで問題を起こしたブラックウォーター社の後継会社)だけだった。
ダインコープは反撃した。昨年12月、同社は国防総省の横暴を訴える正式な異議申し立てを提出した。これを受けて、米政府監査院(GAO)は先頃同社の申し立てを認め、ダインコープを含むすべての会社に入札の機会が開かれるべきだと勧告した。その後、ダインコープのウィリアム・バルハウスCEO(最高経営責任者)は株主への説明で、同社の契約が今年7月まで延長されたと語っている。新規の入札は、早くてもその後になるのだろう。
一方、1月末にはカブールの警察訓練センターにイタリアの国家憲兵隊35名が到着した。ダインコープによる訓練を補うためだ。当時、訓練生の射撃の成績は惨憺たるものだったが、イタリアの憲兵はすぐに、問題は射撃の腕前だけではないことを見抜いた。
訓練生が使用していたAK47やM16ライフルの照準がひどく狂っていたのだ。「すぐにすべての銃の照準を正しく調整してやった」と、ロランド・トマシーニ大尉は言う。「すごく大事なことなのに、今までは誰もやらなかった。理由は分からない」
イタリア人は射撃の教え方も違った。ダインコープの教官は、訓練生に弾を20発与えて50メートルの距離から撃たせていた。訓練生は最初、標的に当たったかどうかさえ分からなかった。
だがイタリア人はまず3発の弾を与えて、7メートル先の標的を撃つことから始めさせた。訓練生は撃った後に自分で標的を確認し、再び弾を3発与えられた。
訓練生が自信を持ち始めると、標的を15、30、50メートルと徐々に遠ざけた。最近の射撃テストでは、73人の訓練生のうち落第したのはたった1人だった。
精鋭部隊にも複雑な反応
コールドウェルも、イタリアやフランスの憲兵のような準軍事的な警官隊のほうが、民間請負会社より仕事をしやすいと言う。現役の警官隊には首尾一貫した規律に基づく指揮系統があるからだ。
「民間請負会社との業務では、異なるタイプの人々を指揮しなくてはならない」とコールドウェルは言う。「州の警官や地方の保安官、ニューヨーク市の巡査もいる。みんな経歴が異なるし、身に付けた行動規範も異なっている」
しかも、何事にも請負会社との交渉が必要になる。「何かを変えたいと請負会社の担当者に言うと、『それが本当にベストな方法なんですかね』と反論されかねない。だが憲兵隊なら問答無用で動くし......指示もよく伝わる」
コールドウェルとしては、10月末までに10万9000人の警察部隊を教育したい。これには現在約4900人いる「精鋭部隊」も含まれる。この精鋭部隊はアフガニスタン国民治安警察(ANCOP)と呼ばれ、マルジャのような危険地域に配置される。