最新記事

アフガニスタン

米政府が育てた銃も撃てないど素人警察

2010年5月20日(木)16時08分
T・クリスチャン・ミラー(米調査報道機関プロパブリカ記者)、マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)、ロン・モロー(イスラマバード支局)

 ダインコープの元幹部は、訓練の具体的な目標について国務省に何度も問い合わせたが、はっきりした返事はなかったと言う。「どういう成果が求められているのか、どういう基準なのか説明してほしいと頼んだが、明確な構想は示されなかった」

 一方、ジョンソン国務次官補は「訓練プログラムは、専門家が作成した明確なカリキュラムに基づいたものだ」と言う。「現地にいる監督スタッフの数だけで判断してもらっては困る。ワシントンに強力なサポート体制を敷いているのだから」

民間会社の教え方が悪かった?

 新たな問題が次々に起きたのは昨年夏のことだ。治安部隊育成を指揮しているコールドウェルの前任者リチャード・フォーマイカ大将は、国防総省が直接に訓練の契約を取り仕切るべきだと決めた。煩雑な入札手続きを簡略化するために、彼は警察訓練の業務を米陸軍の宇宙ミサイル防衛軍団が仕切る既存の麻薬・テロ対策プログラムに組み込むことを提案した。

 入札できるのは同軍団と契約実績のある企業に限られ、ダインコープは排除された。結果、応札したのはノースロップ・グラマンとゼー・サービシズ(かつてイラクで問題を起こしたブラックウォーター社の後継会社)だけだった。

 ダインコープは反撃した。昨年12月、同社は国防総省の横暴を訴える正式な異議申し立てを提出した。これを受けて、米政府監査院(GAO)は先頃同社の申し立てを認め、ダインコープを含むすべての会社に入札の機会が開かれるべきだと勧告した。その後、ダインコープのウィリアム・バルハウスCEO(最高経営責任者)は株主への説明で、同社の契約が今年7月まで延長されたと語っている。新規の入札は、早くてもその後になるのだろう。

 一方、1月末にはカブールの警察訓練センターにイタリアの国家憲兵隊35名が到着した。ダインコープによる訓練を補うためだ。当時、訓練生の射撃の成績は惨憺たるものだったが、イタリアの憲兵はすぐに、問題は射撃の腕前だけではないことを見抜いた。

 訓練生が使用していたAK47やM16ライフルの照準がひどく狂っていたのだ。「すぐにすべての銃の照準を正しく調整してやった」と、ロランド・トマシーニ大尉は言う。「すごく大事なことなのに、今までは誰もやらなかった。理由は分からない」

 イタリア人は射撃の教え方も違った。ダインコープの教官は、訓練生に弾を20発与えて50メートルの距離から撃たせていた。訓練生は最初、標的に当たったかどうかさえ分からなかった。

 だがイタリア人はまず3発の弾を与えて、7メートル先の標的を撃つことから始めさせた。訓練生は撃った後に自分で標的を確認し、再び弾を3発与えられた。

 訓練生が自信を持ち始めると、標的を15、30、50メートルと徐々に遠ざけた。最近の射撃テストでは、73人の訓練生のうち落第したのはたった1人だった。

精鋭部隊にも複雑な反応

 コールドウェルも、イタリアやフランスの憲兵のような準軍事的な警官隊のほうが、民間請負会社より仕事をしやすいと言う。現役の警官隊には首尾一貫した規律に基づく指揮系統があるからだ。

「民間請負会社との業務では、異なるタイプの人々を指揮しなくてはならない」とコールドウェルは言う。「州の警官や地方の保安官、ニューヨーク市の巡査もいる。みんな経歴が異なるし、身に付けた行動規範も異なっている」

 しかも、何事にも請負会社との交渉が必要になる。「何かを変えたいと請負会社の担当者に言うと、『それが本当にベストな方法なんですかね』と反論されかねない。だが憲兵隊なら問答無用で動くし......指示もよく伝わる」

 コールドウェルとしては、10月末までに10万9000人の警察部隊を教育したい。これには現在約4900人いる「精鋭部隊」も含まれる。この精鋭部隊はアフガニスタン国民治安警察(ANCOP)と呼ばれ、マルジャのような危険地域に配置される。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指

ビジネス

アングル:データセンター対応で化石燃料使用急増の恐

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中