新上海、情熱の源を追う
「上海に影響されて、みんなが変わっていく」と、建築家のキャッツは言う。「この街の変化はますます熱い注目を浴びている」
上海のアーティストにとって最も重要な変化は、当局が知的・芸術的自由をより広く認めるようになったことだろう。
文広局は2000年、北京のアーティスト艾未来(アイ・ウエイウエイ)の個展『不合作方式──ファック・オフ』を中止させた。世界各地の有名な建造物や政府の建物に向かって艾が中指を突き立てている写真があり、北京の故宮の前でも同じポーズを取っていたからだ。
艾に言わせれば、この手の挑発的な芸術は、気むずかしい役人とは肌が合わない。だが00年以降は、当局によって禁止されたイベントは一つもないと、上海のアーティスト秦一峰(チン・イーフォン、43)は言う。
上海の作家、棉棉(ミエン・ミエン、34)は、欲望と喪失を描いた小説で多くの中国人読者を魅了し、上海の映画監督、程裕蘇(チョン・ユィスー)の目にもとまった。その棉も、上海はゆとりが出てきたと語る。
デビュー作『ラ・ラ・ラ』は深センの愛と音楽、ドラッグ、失望を描いた短編集だ。棉は95年に上海へ戻り、薬物依存症の更生プログラムを受けた。『ラ・ラ・ラ』は中国での出版社も決まったが、印刷所の外に出ることはなかった。
「政府はまだ、あのような本を受け入れられなかった」と、棉は振り返る。「私は問題児だから」
金と消費を愛する「美しいあばずれ」
2冊目の『上海キャンディ』は00年に4カ月で6万部が売れた後、やはり発禁処分となった。それでも棉は、政府も以前ほど保守的でなくなったから、最新作『熊猫性』は無事に刊行されるだろうと期待している。大切なのはファンが自分の本を読めることだと、彼女は言う。
もっとも、文化が解放されるほど、社会問題は増えるのかもしれない。上海性社会学専業委員会の夏は、10代の妊娠が増えている理由の一つに、大衆文化をあげる。年長の世代はセックスや薬物はタブーだと教えられてきたから、話をすることさえためらう。結果として、多くの子供が自分を守る方法を知らずにいる。
上海の「性革命」は、同性愛者の立場も変えてきた。ただし安全なセックスの習慣がほとんどないため、エイズ蔓延のおそれがあると、性的マイノリティーのためのホットラインを運営する周丹は言う。
上海が物質主義に走りすぎることを懸念する声もある。作家の棉は、上海をこう表現する──「金を愛する美しいあばずれ」。
もちろん、当局にはありがたくないキャッチフレーズだ。彼らが強調したいのは、上海が「人種のるつぼ」だということ。多くの外国人と、全国から集まるさらに多くの中国人が出会い、目まぐるしく変わる文化を生み出すというわけだ。
それこそ「芸術の源」だと、程は言う。「ニューヨークや東京、パリが文化の中心になっているのは、アーティストが独自の視点をつくり出しているからだ」
中国の基準からみれば、上海にはすでに独自の視点がある。中国では北京と上海が、芸術と流行の拠点になろうと競い合っている。だが北京は政治色が濃く、政府の存在は絶対だ。
一方の上海は国際色があり、より時流に敏感だ。アメリカの広告会社でリサーチディレクターを務めるエドワード・ベルによると、買い物をするとき、北京の人は品質と予算にこだわる傾向がある。上海の人は「もっと流行を考える」と、ベルは言う。
罪の意識なく消費を楽しめる
欧米のブランドが、この市場を見逃す手はない。ジョルジオ・アルマーニ、サルバトーレ・フェラガモ、ルイ・ヴィトンは、相次いで上海に旗艦店をオープンした。