最新記事

都市,上海,万博

新上海、情熱の源を追う

2010年4月28日(水)12時30分
サイモン・クレイグ

 もちろん、いいことばかりではない。地元メディアの報道によると、昨年は貧しい地方からの移住者を中心に人口が300万も増え、住宅や公共サービスを圧迫している。貧富の格差はすさまじく、都会に出てきた若い女性の多くは、たいていナイトクラブの踊り子としてわずかな日銭を稼ぐことになる。どうしても手っ取り早く稼ぎたければ、ストリップをしたり体を売ることになる。

 上海でエイズが増えている一因はそこにあると、上海性社会学専業委員会の夏国美委員長は指摘する。性感染症の感染率は年々30%近く上がっており、薬物使用者による注射針の使い回しも増えている。このままだと、上海が新たなエイズ危機の震源地になりかねない。「上海は国際都市だから、国際的な問題に直面せざるをえない」と、夏は言う。

神話に着想を得た高層ビルが天を突く

 一方、文化に目を向けると、行政当局が潤沢な資金力を背景にして新しい美術館や劇場を続々と建てている。上海市文化広播影視管理局(文広局)の張哲副局長によれば、拠出金はすでに「数十億ドル」に達している。
 
 上海の「文化再生」のシンボルは、街の中心部に登場した3大文化施設――上海大劇院と上海博物館、上海美術館だ。当局は市内の博物館を現在の46から100まで増やす意向で、すでに鉄道や金融、トンネルの専門博物館をオープンさせた。2010年までに世界に通用する現代美術館を建設しようと、ニューヨークのグッゲンハイム美術館や東京の森美術館にもアドバイスを求めている。

 なにしろ、10年には上海世界博覧会の開催が待ち受けている。約1億4000万人の来場者が予想される一大イベントだ。

 しかし、行政主導のアプローチでエネルギッシュな文化を生み出せるものだろうか。「優れた芸術は独立した創作活動から生まれるものだ」と、薜松は言う。「もっと個々のアーティストを支援するべきだ」

 そんなことはない、と文広局の張哲は反論する。上海市民、とくに若者にアートやスポーツを広めるという政府の戦略は、長い目で見れば必ず功を奏するという。

 さらに、中国で初めて前衛アートを手がける「上海多倫現代美術館」といった施設が助成金を受けることは、地元アーティストの後押しにもなる。作品を発表する場が与えられ、それらを購入したいと思う人々も増えるからだ。

 もちろん、民間部門も頑張っている。08年に竣工予定の「上海環球金融センター」は101階の高さを誇り、完成すれば世界屈指の高層ビルになる。そのデザインには、中国のモチーフと欧米のコンセプトが融合している。

 超高層ビルは欧米の高度な建築技術の結晶だが、この金融センターは「天と地をつなぐ中国の神話から着想を得た」と、設計を担当したポール・キャッツは言う。高さ9階分に相当する四角い基底部は「大地」を、最上階付近をぶち抜く直径50メートルの円は「天空」をイメージしたものだ。

 もう一つ、建築分野の金字塔としてあげられるのがダウンタウンの一角を占める「新天地」。2ブロックにわたる19世紀初期のレンガ造りのアパート群を改修した地区だ。アメリカ人建築家ベンジャミン・ウッドが総予算1億7000万ドルの再開発計画を指揮し、歴史的建造物に現代的なクオリティーと機能を導入した。

挑発的なアートでタブーにチャレンジ

 最新スポット「外灘三号」には東西の折衷料理を提供するレストランが登場。フランス料理の有名シェフ、ジャンジョルジュ・ボンゲリヒテンも店を構え、「エビの香草蒸しサラダ、スイカの冷製スープ添え」といったメニューを考案している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反発、日銀イベント控えハト派期待が

ワールド

木原官房長官、撤回指示など明言せず 官邸幹部の「核

ワールド

NZ企業信頼感、12月は30年ぶり高水準 見通し指

ワールド

TikTok米事業、売却契約を締結 投資家主導の企
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中