新上海、情熱の源を追う
もちろん、いいことばかりではない。地元メディアの報道によると、昨年は貧しい地方からの移住者を中心に人口が300万も増え、住宅や公共サービスを圧迫している。貧富の格差はすさまじく、都会に出てきた若い女性の多くは、たいていナイトクラブの踊り子としてわずかな日銭を稼ぐことになる。どうしても手っ取り早く稼ぎたければ、ストリップをしたり体を売ることになる。
上海でエイズが増えている一因はそこにあると、上海性社会学専業委員会の夏国美委員長は指摘する。性感染症の感染率は年々30%近く上がっており、薬物使用者による注射針の使い回しも増えている。このままだと、上海が新たなエイズ危機の震源地になりかねない。「上海は国際都市だから、国際的な問題に直面せざるをえない」と、夏は言う。
神話に着想を得た高層ビルが天を突く
一方、文化に目を向けると、行政当局が潤沢な資金力を背景にして新しい美術館や劇場を続々と建てている。上海市文化広播影視管理局(文広局)の張哲副局長によれば、拠出金はすでに「数十億ドル」に達している。
上海の「文化再生」のシンボルは、街の中心部に登場した3大文化施設――上海大劇院と上海博物館、上海美術館だ。当局は市内の博物館を現在の46から100まで増やす意向で、すでに鉄道や金融、トンネルの専門博物館をオープンさせた。2010年までに世界に通用する現代美術館を建設しようと、ニューヨークのグッゲンハイム美術館や東京の森美術館にもアドバイスを求めている。
なにしろ、10年には上海世界博覧会の開催が待ち受けている。約1億4000万人の来場者が予想される一大イベントだ。
しかし、行政主導のアプローチでエネルギッシュな文化を生み出せるものだろうか。「優れた芸術は独立した創作活動から生まれるものだ」と、薜松は言う。「もっと個々のアーティストを支援するべきだ」
そんなことはない、と文広局の張哲は反論する。上海市民、とくに若者にアートやスポーツを広めるという政府の戦略は、長い目で見れば必ず功を奏するという。
さらに、中国で初めて前衛アートを手がける「上海多倫現代美術館」といった施設が助成金を受けることは、地元アーティストの後押しにもなる。作品を発表する場が与えられ、それらを購入したいと思う人々も増えるからだ。
もちろん、民間部門も頑張っている。08年に竣工予定の「上海環球金融センター」は101階の高さを誇り、完成すれば世界屈指の高層ビルになる。そのデザインには、中国のモチーフと欧米のコンセプトが融合している。
超高層ビルは欧米の高度な建築技術の結晶だが、この金融センターは「天と地をつなぐ中国の神話から着想を得た」と、設計を担当したポール・キャッツは言う。高さ9階分に相当する四角い基底部は「大地」を、最上階付近をぶち抜く直径50メートルの円は「天空」をイメージしたものだ。
もう一つ、建築分野の金字塔としてあげられるのがダウンタウンの一角を占める「新天地」。2ブロックにわたる19世紀初期のレンガ造りのアパート群を改修した地区だ。アメリカ人建築家ベンジャミン・ウッドが総予算1億7000万ドルの再開発計画を指揮し、歴史的建造物に現代的なクオリティーと機能を導入した。
挑発的なアートでタブーにチャレンジ
最新スポット「外灘三号」には東西の折衷料理を提供するレストランが登場。フランス料理の有名シェフ、ジャンジョルジュ・ボンゲリヒテンも店を構え、「エビの香草蒸しサラダ、スイカの冷製スープ添え」といったメニューを考案している。