満たされたドイツの現状維持症候群
国も個人も借金漬けなのに贅沢な暮らしを続けるギリシャ人(やスペイン人、ポルトガル人)のために、どうしてドイツ人が金を払わなければならないのか。ドイツ人はこの10年、痛みを伴う改革や増税、賃金の伸び悩みに耐えてきた。ギリシャの政治腐敗や、財政データと赤字の「粉飾」を考えれば、ふさわしい運命をたどらせるしかないとも思えてくる。債務不履行もやむを得ない。
それでもドイツにとって、介入しないという決定を下すにはこの問題の影響は大き過ぎる。まず、ドイツ企業の競争力の高さと利益の源は、単一通貨ユーロの安定にほかならない。ドイツの輸出の44%は対ユーロ諸国で、GDPの15%に相当する。
さらに、ドイツの金融機関は不安定な国々の高利回りの債券を無謀に買い集めてきた。アメリカのサブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅融資)関連の「有毒」証券を、世界で最も多く買っていたのもドイツの銀行だ。彼らは今回も、ドイツ人の蓄え(高齢者を支えるはずの貯蓄余剰)から3480億鍄をギリシャなど不安定な南欧経済の債券に投資した。
輸出依存経済のリスク
こうした状況を考えると、ドイツはギリシャとその仲間の行く末を運命に委ねることなどできない。
既にメルケルは慎重に行動を起こしている。サルコジと共に漠然とした言葉でギリシャへの支援を表明する一方で、ギリシャに厳しい緊縮予算を要請している。
ギリシャの債券を買うドイツの銀行に、政府が保証を検討しているという噂もある。メルケルにしてみれば、直接の金融支援はしないという有権者への約束は守れる。
現在、ギリシャの財政はほぼEUの管理下にあり、歳出削減や増税などの進捗状況を毎月報告しなければならない。メルケルは5日にギリシャのアンドレアス・パパンドレウ首相と会談した後の記者会見で、直接の金融支援はしないとあらためて強調した。メルケルが動いたことによって、市場は落ち着きを取り戻しているようだ。
ただし、重要な問題がいくつか解決されていない。例えば、EU経済の協調について、現在の役に立たない安定成長協定よりはるかに効果的な仕組みが必要なこともその1つだ。
それ以上に根本的な問題は、ドイツ経済が長年、伸び悩んでいるのに、中国並みに経済成長を輸出に依存していること。そのためユーロ圏内の貿易と財政に多大な不均衡が生じている。
国内で抜本的な改革を実行しなくても、国際社会への関与を強化しなくても現状は維持できる。そんなドイツの幻想を揺るがす危機は、ギリシャやスペインの財政問題のほかにもたくさんある。
言うまでもなく、国内では福祉制度が大きな問題だ。大幅な改革はしないというのがメルケルの公約だが、果たしてそれは可能なのか。ドイツの福祉予算がGDPに占める割合は既に3割超。コンサルティング会社マッキンゼーによれば、高齢化と労働人口の減少が進むなかでドイツが繁栄を維持するには、3%の年間成長率が必要となる。金融危機前と比べても2倍近い数字だ。
汚れ仕事は他国任せに
これほどの成長率を達成するには、ゲアハルト・シュレーダー前首相時代に始まった手ぬるい改革より、はるかに大胆な行動に踏み切る必要がある。だが支持率を意識するメルケルはこれまで、シュレーダー政権時代の不人気な労働市場・福祉制度改革の多くを部分的にであれ逆戻りさせてきた。金融危機が勃発した今では、市場寄りの経済改革は口にするのもはばかられる雰囲気になっている。