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手記人権なき中国という試練
8月12日の早朝、四川省のホテルで眠っていた私は乱暴にドアをたたく音で目を覚ました。30人ほどの警察官が部屋になだれ込んできて私を小突き始めた。彼らは身分証明書の提示を求める私を殴り、腕を押さえ付け、誰かが頭を強くパンチした。この1カ月後、私は脳出血で死にかけることになる。
四川省に行ったのは、人権活動家の譚作人(タン・ツオレン)の裁判に証人として出廷するためだ。譚は08年の四川大地震で生き埋めになった5000人以上の児童の名前を突き止めようとして、国家政権転覆扇動罪で起訴されていた。
証言しようと思ったのは、私もこの悲劇の真相を突き止めようとしていたからだ。政府が情報の公開を拒んだので今年3月、私は自分のブログで市民に調査を呼び掛けた。「それぞれの命には尊厳がある。数字だけで片付けるべきではない。子供たちの名前は何だ? 親の名前は何だ?」
訪中でなぜ人権を議題にしない
ボランティアたちが四川省政府の関係部署に計200回も電話をかけた。この件は国家機密だと政府職員は言ったが、検閲で閉鎖されるまでに5000人以上の児童の名前をブログで発表することができた。
中国には政府が情報を明らかにしないという長い伝統があり、国民が真実を知ることは難しい。独立した司法制度も存在しない。証人の出廷を警察が阻止するなんて、まるでマフィアのようだ。その上、まともな疑問を投げ掛ける独立した報道機関も存在しない。
11月にバラク・オバマ大統領が初めて訪中し、世界経済や気候変動について話し合った。私は彼を強く支持している。アメリカにとっても世界にとっても大きな希望だと思うからだ。しかしせっかく訪中しながら人権を議題にしないなんて、私には信じられない。中国経済がいくら発展しようが、国民の基本的人権も守られないなら何の意味もない。オバマは自由と人間の尊厳という西側の価値観をはっきり示すべきだ。
結局、私は譚作人の裁判に出席できなかった。警官たちは私を殴った後、裁判が終わるまでホテルの部屋に監禁したのだ。
1カ月後、私は個展のためにドイツのミュンヘンにいた。個展のタイトルは『非常に遺憾』とした。中国の指導者が大惨事の責任を逃れるためによく口にする言葉だ。会場の入り口には一面に子供たちの通学用リュックを並べた壁を作った。殴られて以来続いていた頭痛がひどくなっていたので病院で検査すると、脳出血で危険な状態だと言われた。
すぐに手術を受け頭痛は治まった。だがわが中国の人々が自由に生きられるようになるまで、私の心の痛みが治まる日は来ない。
[2009年12月 9日号掲載]