「革命」が色あせるとき
歴史的政権交代は果たしたものの改革は難航。優柔不断なインテリ首相に迫る「細川シンドローム」の影
与党・自民党の支持率低迷と、利己的で何事にも計算ずくの小沢一郎に助けられ、野党が選挙に大勝し政権を握る。経験不足で理想主義者の党首は首相となり、日本に改革の旗印を掲げる。寄せ集めの新しい連立政権に海外メディアは熱い視線を送り、国内の内閣支持率は空前のレベルに達する。そしてある言葉が何度となく繰り返される。「革命だ!」
しかし熱狂はやがて失望に変わる。気付けば首相は政治資金スキャンダルの渦中におり、内閣支持率は急落。省庁間の協議が長引き、規制緩和は先が見えず、財政も歳出削減を迫られている。内閣の政治課題は進まず、連立与党間で議論が紛糾。意欲を失った首相は、冷たい国内メディアとしびれを切らした国民、行き詰まった法案に追い詰められ、屈辱のなかで辞任する。そして自民党復権への長い道のりが始まる──。
鳩山由紀夫首相の民主党が率いる現在の連立政権のことではない。「細川シンドローム」の話だ。1955年以降初の非自民党政権として、細川連立政権は93年8月に発足した。首相の細川護煕は非現実的な抽象論を好み、それが政権の誕生につながったが、同時に政権を崩壊させた。
細川連立政権の急速な盛衰は、戦後日本における機会喪失の代表例といっていい。その誕生当初は歴史的と歓迎されたが、結局わずか1年足らずで総辞職に追い込まれ、期待外れの結果しか残せなかった。
優柔不断なインテリ
2010年も歴史は繰り返すのだろうか。状況を見る限り、その可能性が高まっている。
鳩山政権の支持率は09年9月の発足当初は75%(細川政権は発足当初72%)あったが、同年末には47%に低下した(細川政権は50%)。93年から94年当時と同じく、円高傾向で輸出は低迷。資産価値は下落し、対GDP(国内総生産)比で世界最大の債務を抱えている。デフレが再燃しているというのに、日本銀行は17年前と同じくらい及び腰だ。
さらに専門家の予測では、今年1〜3月も経済成長率は引き続き低迷する。不況が長引けば、民主党が単独過半数を狙う極めて重要な夏の参院選の前に、鍵を握る地方の選挙区で失業と自己破産が増えてしまう。
こうした時期に政権与党は普通、「我慢」を呼び掛ける。船長が潮流の変化をコントロールできないのと同じで、政府も短期の景気循環をコントロールできない。しかし有権者はそうは考えない。
政府内の誰かをスケープゴートにするか、政府が短期の景気循環をコントロールできるふりをしなくてはならないが、そのどちらもできていない。鳩山はリーダーシップを示さない、優柔不断なインテリのままだ。
こうした状況で「細川シンドローム」に感染すれば、深刻な事態になりかねない。具体的な青写真のない「ビジョン」とやらの波及効果を何年も悠長に待つ有権者など、まずいない。約束された消費者福祉の向上や雇用創出、所得増加の恩恵にいつ、どこで、どんなふうにあずかれるのか確約を求める人がほとんどだ。
細川の場合、このジレンマは規制緩和という言葉に集約されていた。「規制緩和のメリットがいつ、どこで、どんなふうに生じるかはまだ分からないが、規制緩和はやる。皆さんの暮らしはいつか良くなる」と、細川は有権者に請け合った。「いつか」だ。
残された時間は僅か
鳩山の民主党も「庶民」を大事にすると主張している。規制緩和にあまり関心はないようだが、有権者に対し反ケインズ、反自民、反官僚主義の言葉を繰り返している。税収は減り、歳出は増えているが、鳩山は自民党の「無駄遣い」方式に戻ることを拒否しているため、今年、公共事業によって雇用が増えることはないだろう。