対イラン制裁、オバマの切り札はこの男
「革命防衛隊が衰退するとすれば、その要因は腐敗だ」と、イランのある情報当局者は本誌に語る。「この20年間、革命防衛隊は最高指導者と歴代政権によって、いかがわしい金儲けを許されてきた」
レビーは、米欧は革命防衛隊を「抑圧のシンボル」として狙い撃ちにしていくと言う。この方法であれば、核開発計画をめぐるイラン国民のナショナリズムに火を付けることなく、民主活動家を支援できると計算している
具体的には、前出のオバマ政権高官によれば、レビーのチームが革命防衛隊の「数十社」のフロント企業(ビジネス活動を行うための隠れみのにしている企業)を特定し、社名を公表する。その上でアメリカ政府による制裁措置をちらつかせて、そうした企業とのビジネスを打ち切るよう世界中の企業に圧力をかけていくという。「どの企業が革命防衛隊の所有か支配下にあるかは、分かっている」と同高官は言う。
体制は整い始めている。国連安全保障理事会は既に、革命防衛隊の幹部を名指しして国際法違反を指摘している。07年秋の時点で当時のブッシュ政権は革命防衛隊の兵器拡散行為を認定。革命防衛隊の精鋭特殊部隊「クッズ」をテロ組織として指定した。
さらに欧米諸国はここ数年、革命防衛隊の経済活動に関する情報をかなり収集している。革命防衛隊のどの幹部がどこに投資しているかもだいぶ分かっている。
オバマは強硬策について、少なくとも国際社会の支持を得られるだろう。ブッシュ政権時代は攻撃的な手段を敬遠しているように見えたEU(欧州連合)も、最近は戦略の転換を強く求めている。09年12月にEU加盟国の外相は共同声明を発表。安全保障理事会に新たな制裁決議を求めた。
米議会も珍しく党派を超えて協調し、対イラン制裁強化法案が12月に下院で可決された。機密技術や石油精製品のイランへの輸出に関与する外国企業に、米国内での事業を禁止するというものだ。
いくつかの企業は既に圧力を受けている。インドの石油化学大手リライアンス・インダストリーズは長年、精製ガソリンをイランに供給してきた。しかし08年前半にフランスの大手銀行(BNPパリバとクレディ・アグリコル)がレビーから迫られて、リライアンスのイランでの取引について信用状を撤回した。
その年の12月には米国防総省の核不拡散部門の元担当者でアリゾナ州立大学教授のオード・キットリーが、リライアンスが米輸出入銀行から2件総額9億ドルの融資保証を受けていたことを暴露。超党派の連邦議員は輸出入銀行に、国民の税金でリライアンスを支援しないように要求した。
ドバイショックで痛手
リライアンスは、イランとの取引をすべて中止する手続きを進めており、自社の取引相手にも同じことを求めていく旨を議員側に伝えた。「現在は直接にも第三者を介しても、イランにガソリンを販売していない」と、同社は本誌に文書で回答した。
さらにイランの新たな弱点になりつつあるのが、借金漬けのドバイだ。この数十年でイランからドバイへの投資は総額約2500億ドル。大半は革命防衛隊のフロント企業を通しているとみられる。
今後は、イランの実業界に対してドバイほど友好的ではない同じUAEのアブダビが、返済不能に陥った負債の一部を肩代わりするかもしれない(レビーの財務省のオフィスのテーブルには、アブダビからのパンフレットが置いてあった)。
レビーの戦略は06年にさかのぼる。アメリカは当時、国連によるイラン制裁についてほとんど支持を集められずにいた。ブッシュ政権はイランと北朝鮮に対して強硬手段を取ろうと、新しい方法を模索していた。