ニュース速報
ワールド

焦点:深刻化する世界の飢餓、支援責任果たさぬ大国に不満も

2025年01月04日(土)13時13分

 これは単純だが残酷な方程式だ。世界中で飢餓などに苦しむ人々の数が増加している一方で、最も富裕な国々が人道支援のために拠出する金額は減少している。写真はスーダン・南コルドファン州の避難民キャンプで食事を待つ子どもたち。2024年6月撮影(2025年 ロイター/Thomas Mukoya)

Kaylee Kang Jaimi Dowdell Benjamin Lesser

[24日 ロイター] - これは単純だが残酷な方程式だ。世界中で飢餓などに苦しむ人々の数が増加している一方で、最も富裕な国々が人道支援のために拠出する金額は減少している。

結果として、2025年は人道支援を必要とする3億700万人のうち、60%程度を支援できる資金しか調達できないと国連は予想している。つまり少なくとも1億1700万人が食糧その他の支援を受けられないということだ。

国連は24年、全世界の人道支援のために調達を目指している496億ドルのうち、約46%しか集められそうにないとの見通しを示している。達成率が半分以下にとどまるのは2年連続だ。人道支援機関は苦渋の決断を迫られ、飢餓に苦しむ人々への配給を削減したり、支援の受給資格者を減らしたりしている。

例えばシリアで国連世界食糧計画(WFP)は、かつて600万人に食糧を供給していたが、24年初めの寄付額予測を踏まえて支援対象者を約100万人にまで削減した。WFPのパートナーシップおよび資源動員担当副事務局長であるラニア・ダガッシュカマラ氏が明らかにした。

一部の富裕国は財政逼迫と政治情勢の変化を背景に、支援の規模と対象を見直している。国連への寄付額が最大規模のドイツは既に、財政緊縮の一環として23年から24年にかけて人道支援を5億ドル削減。内閣は25年について、さらに10億ドルの削減を勧告している。

人道支援組織は、トランプ次期米大統領が人道支援についてどのような提案を行うかも注視している。トランプ氏は1期目に米国の資金援助を大幅に削減しようとしていた。

米国は、世界中で飢餓の防止と対策において主導的な役割を果たしており、過去5年間で645億ドルの人道支援を提供した。これは、国連が記録した同種の拠出総額の少なくとも38%に相当する。

<分担に大きな差>

人道支援資金の大半は、米国とドイツ、欧州連合(EU)欧州委員会という富裕な国と組織が拠出している。国連の記録では、20年から24年の危機支援額1700億ドルの58%を、これら3主体が占めた。

ロイターが国連の拠出金データを調査したところ、やはり大国である中国、ロシア、インドによる拠出額は、同期間の人道支援額の1%にも満たない。

この差が縮まらないことが、世界的な飢餓支援制度が窮状にある主因の一つだ。23年には59の国と地域において、約2億8200万人が深刻な食糧不足に直面した。

トランプ氏は、主要な国々が応分の負担を引き受けていないとの不満を繰り返し訴えてきた。トランプ氏の支持者らが2期目に向けてまとめた政策提言「プロジェクト2025」は、人道支援機関に対して他の国々からの資金調達に一層努力するよう求め、それを米国による追加支援の条件にすべきだとしている。

プロジェクト2025はまた、ほとんどの飢餓危機の原因である紛争について特別な言及を行っている。いわく「人道支援は戦争経済を支え、戦闘を続けるための財政的インセンティブを生み出し、政府の改革を妨げ、悪政を支えている」。そして「悪の勢力」が支配する地域で支援プログラムを中止し、国際的な支援を大幅に削減するよう求めている。

トランプ氏が新組織「政府効率化省」のトップに指名した実業家イーロン・マスク氏は今月Xで、同省が海外援助を検証すると表明した。

<五輪と宇宙船>

多くの地域で大規模な飢餓が長引くにつれ、寄付国の間に支援疲れが広がっていると人道支援機関は指摘している。 自国が支援できる額には限界があるだけに、十分な責任を担っていないとみられる大国に対する不満が募っているという。

ノルウェー難民評議会の代表であるヤン・エーゲランド氏は、ノルウェーのような小国が人道支援の拠出国上位に位置するのは「異常」だと話す。ロイターが国連の支援データを調査したところ、23年の国民総所得(GNI)が米国の2%にも満たないノルウェーは同年、国連に10億ドル余りを拠出し、世界7位の寄付国だった。

これに対し、GNI世界2位の中国による人道支援は1150万ドルで32位、GNI世界5位のインドは640万ドルで35位にとどまった。

エーゲランド氏は、中国とインドは世界的な注目を集める取り組みにはるかに多くの投資を行っていると指摘する。中国は22年の冬季五輪開催に数十億ドルを費やし、インドは23年に7500万ドルを投じて月面に無人探査機を着陸させた。

「世界の飢えに苦しむ子どもたちを助けることに、なぜこれほど関心が薄いのか」とエーゲランド氏。「これら(の国々)はもはや発展途上国ではない。五輪を開催し、他の多くの支援国が夢にも思わない宇宙船を所有しているのだ」と憤る。

駐米中国大使館の報道官は、中国は常にWFPを支援してきたと主張。また、中国国内で14億人に食糧を供給していると指摘した上で「それ自体が世界の食糧安全保障に対する大きな貢献だ」と述べた。

インドの国連大使および外務省は質問に回答しなかった。

14年当時、国連難民高等弁務官だったグテレス現国連事務総長は、国連加盟国による人道支援資金の拠出方式を抜本的に変え、加盟国に手数料を課す制度にするよう提言した。国連の報告書によると、翌年に国連はグテレス氏の案を検討したが、支援側の加盟国が、ケースバイケースで拠出を決める現行制度の継続を選択した。

国連人道問題調整事務所の報道官、レンズ・ラーケ氏は、国連は寄付ベースの多様化に取り組んでいると説明。「お馴染みの寄付国クラブに頼るだけではいけない」と認めた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは157円後半に上昇、方向感乏しく売

ワールド

インド、次期米政権との経済関係強化に期待=商工相

ビジネス

英企業、税制への満足感が17年以降で最低=商工会議

ワールド

北朝鮮が弾道ミサイル、中距離弾か 米国務長官の訪韓
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...ミサイル直撃で建物が吹き飛ぶ瞬間映像
  • 2
    空腹も運転免許も恋愛も別々...結合双生児の姉妹が公開した「一般的ではない体の構造」動画が話題
  • 3
    ウクライナ水上ドローンが「史上初」の攻撃成功...海上から発射のミサイルがロシア軍ヘリを撃墜(映像)
  • 4
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡…
  • 5
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 6
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 7
    「妄想がすごい!」 米セレブ、「テイラー・スウィフ…
  • 8
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 9
    肥満度は「高め」の方が、癌も少なく長生きできる? …
  • 10
    気候変動と生態系の危機が、さらなる環境破壊を招く.…
  • 1
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も助けず携帯で撮影した」事件がえぐり出すNYの恥部
  • 2
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 3
    JO1やINIが所属するLAPONEの崔社長「日本の音楽の強みは『個性』。そこを僕らも大切にしたい」
  • 4
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に…
  • 5
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 6
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 7
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 8
    キャサリン妃の「結婚前からの大変身」が話題に...「…
  • 9
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡…
  • 10
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中