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ダボス会議

アメリカが消えた今年のダボス

ダボス会議では例年アメリカの金融や政府関係者が幅を利かせていたが、今回は存在感が薄すぎる

2010年1月29日(金)15時58分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

盛者必衰 ダボスでは、世界経済の中で誰が上り調子で誰が落ち目か一目瞭然 Michael Buholzer-Reuters

 世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)のためにスイスのダボスに来てから丸1日経つが、耳にしない言葉がいくつかある。「ゴールドマン・サックス」「サブプライム・ローン」「アメリカの覇権」......。こうした言葉が聞こえてこないのは、アメリカの存在感が薄れている証拠だ。

 ここ数年のダボス会議は、アメリカの銀行や政策担当者が何をしているか、という話題に独占されていた。信用バブルの頃は、シティグループ、リーマン・ブラザーズ、バンク・オブ・アメリカなど、アメリカを拠点とする大手の国際投資銀行は、そのエゴと業績をこれでもかと膨らませて会場を闊歩していた。バブルが弾けた後は、米政府の対応に注目が集まり、昨年はオバマ新政権が話題の中心だった。

 しかし今年、アメリカの存在感は希薄だ。テクノロジー企業のCEO(最高経営責任者)はいるが、金融機関のCEOは高額のボーナスの使い道を考えるのに忙しいらしい。もちろん注意して見れば、ブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマンCEOやヘッジファンドの経営者など、経済紙の読者にはお馴染みの顔は目にとまる。

オバマチームは教書演説で足止め

 しかし企業の信頼回復に関するパネルディスカッションに参加するはずだったJPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEOは結局来なかった。ゴールドマン・サックスの会長兼CEOのロイド・ブランクファインも欠席。数年前は、シティグループがダボス会議を牛耳っていたが、今はもういない。かつてリーマン・ブラザーズやメリル・リンチが会議の中心だったことが悪い思い出のようだ。

 米政府関係者も姿を見かけない。ティモシー・ガイトナー財務長官は議会で槍玉に上げられているし、バラク・オバマ大統領の一般教書演説のために経済政策チームは足止めを食らっている。

 では誰がダボスに来ているのか?米連邦取引委員会(FTC)のジョン・リーボビッツ委員長はいる。経済・エネルギー・農業担当の国務次官補ロバート・ホーマッツも見かけた。元財務長官で現在はオバマ政権の国家経済会議の委員長を務めるローレンス・サマーズもこの週末には参加すると見られている。

 過去の例から見て、今年のアメリカの布陣は弱い。以前は、大手銀行の重役や政府高官が初日のスピーチを独占して、会議全体の論調を示したものだ。08年には国務長官だったコンドリーザ・ライスが基調講演でブッシュ政権の実績を強い口調で弁護した。だが今年、開幕演説で「グローバリゼーションの危機」に警鐘を鳴らし、オバマ政権の金融政策を擁護したのは、何とフランスのサルコジ大統領だった。

ナイトライフでわかる勢力地図の変化

 アメリカの存在感が弱くなっているのは、世界の経済地図が塗り変わっていることの表れだ。アメリカは以前ほど重要ではなくなり、その金融業界は収縮し続けている。

 このことはダボスで昼の会議以上に重要だといわれる「ナイトライフ」でも見て取れる。一部の参加者にとって日中の高尚な会議は、夜のレセプションやディナー、パーティーの前ふりでしかない。夜毎、ダボスにあるベルベデーレ・ホテルではパーティーが繰り広げられている。このような場は、誰が上り調子で誰が落ち目にあるのかを見分けるバロメーターだ。

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