日米関係の「危機」は大げさだ
取材に応じたオバマ政権高官の言葉からアメリカの本音と鳩山政権の進むべき道が読み取れる
思わぬ誤解 鳩山の「私を信じてほしい」という言葉を、オバマは普天間移設の約束だと理解した(09年11月13日) Issei Kato-Reuters
日米関係が危機に瀕している──。事実かどうかはともかく、沖縄の米軍基地移設問題をめぐる報道を見ていると、そんな印象を受けるのは確かだ。
だが、今回取材に応じてくれたオバマ政権高官によれば、今行われているのは日米関係の再構築。問題は小さな飛行場の移設ではなく、米政府がアジアの重要な同盟国とどう向き合うかという点だ。
「パーティーの話題や新聞記事のネタにぴったりだから大げさな話が好まれるが、大した問題ではないと思う」と、日米関係に詳しいこの高官は語った。「アメリカには同盟関係を台無しにする気はない」
日米は長年、穏やかな関係を維持しており、いさかいが公になることもなかった。だが最近になって緊張が生じ、長年続いてきた不平等な関係を多くの日本研究者が検証している。
新政権への外圧はリスクが高い
日米関係をしばしば揺さぶってきた重要なカギは外圧だ。米政府は自衛隊の海外派遣から米軍基地問題まで数々の外交問題について、日本の歴代政権に圧力をかけてきた。
ワシントン・ポスト紙の報道をみると、ヒラリー・クリントン国務長官の昨年末の言動もそうした外圧の一環にみえる。同紙によれば、クリントンは12月21日、藤崎一郎駐米大使を自室に呼び、「外交的だが単刀直入な言葉」で、普天間飛行場を沖縄県内に移設する現行計画が最善だという「アメリカの立場に変わりはない」と伝えたという。
普天間飛行場を名護市辺古野のキャンプ・シュワブ沿岸部に移すという1996年の日米合意は、いまだに履行されていない。だが対等な関係を模索する鳩山政権は、日米合意を重視しつつ、国内の政治事情にも配慮する必要に迫られている。そのため現時点で日本政府に外圧をかけるのは非常にリスクが高いと、アジア問題の専門家は指摘する。
「発足したての政権の喉元にこの問題を突きつければ、日米関係が誤った方向へ向かってしまう」と、「新たな米安全保障センター」でアジア太平洋安全保障プログラムを統括するパトリック・クロニンは言う。「新政権はまだ未熟だから、アメリカは今は柔軟に対応すべきだ」
「私を信じてほしい」を誤解したオバマ
新たな日米関係の模索をめぐって最も話題になったのは、来日したバラク・オバマ大統領と鳩山由紀夫首相が普天間問題について率直に意見を交換した昨年11月の首脳会談だ。オバマ陣営は、アメリカは現行計画の履行を希望しているものの、両国の見解の相違をマスコミに公表して鳩山政権を困らせる事態は避けたいという思いを内密に日本側に伝えることにしていた。
鳩山はオバマに「私を信じてほしい」と語り、オバマはその言葉を信じた。だが問題は、「私を信じてほしい」という言葉に対するオバマの理解が鳩山の意図と食い違っていたことだ。
先の政府高官は、「普天間をキャンプ・シュワブに移設するという意味だと受け取った」と発言。そのうえで、鳩山の「約束」が実現する時期については曖昧だったと指摘した。
一方、クロニンに言わせれば、「鳩山にそんなつもりはなかった」。「『私を信じてほしい』は日米合意を完全に履行できるという意味ではなく、もっと政治的な言葉だった。私と一緒にこの問題に取り組んでくれれば協力しますよというニュアンスだ」。おかげで、両首脳の関係はぎくしゃくしてしまった。
こうした誤解に加えて、オバマ政権の表向きの態度も事態を複雑にしている。クロニンはリベラル派から保守派まで民主党の多くの国会議員と会談したが、誰一人として現行の移設計画が実現可能だとは思っていなかったという。「日本は普天間を移設できない。以上」と、クロニンは言う。「アメリカが(現行計画の履行を)強要しても勝てないと思う。日本側がそれを実行できないからだ」