最新記事

外交

日米関係の「危機」は大げさだ

取材に応じたオバマ政権高官の言葉からアメリカの本音と鳩山政権の進むべき道が読み取れる

2010年1月6日(水)17時59分
ジョシュ・ローギン

思わぬ誤解 鳩山の「私を信じてほしい」という言葉を、オバマは普天間移設の約束だと理解した(09年11月13日) Issei Kato-Reuters

 日米関係が危機に瀕している──。事実かどうかはともかく、沖縄の米軍基地移設問題をめぐる報道を見ていると、そんな印象を受けるのは確かだ。

 だが、今回取材に応じてくれたオバマ政権高官によれば、今行われているのは日米関係の再構築。問題は小さな飛行場の移設ではなく、米政府がアジアの重要な同盟国とどう向き合うかという点だ。

「パーティーの話題や新聞記事のネタにぴったりだから大げさな話が好まれるが、大した問題ではないと思う」と、日米関係に詳しいこの高官は語った。「アメリカには同盟関係を台無しにする気はない」

 日米は長年、穏やかな関係を維持しており、いさかいが公になることもなかった。だが最近になって緊張が生じ、長年続いてきた不平等な関係を多くの日本研究者が検証している。

新政権への外圧はリスクが高い

 日米関係をしばしば揺さぶってきた重要なカギは外圧だ。米政府は自衛隊の海外派遣から米軍基地問題まで数々の外交問題について、日本の歴代政権に圧力をかけてきた。

 ワシントン・ポスト紙の報道をみると、ヒラリー・クリントン国務長官の昨年末の言動もそうした外圧の一環にみえる。同紙によれば、クリントンは12月21日、藤崎一郎駐米大使を自室に呼び、「外交的だが単刀直入な言葉」で、普天間飛行場を沖縄県内に移設する現行計画が最善だという「アメリカの立場に変わりはない」と伝えたという。

 普天間飛行場を名護市辺古野のキャンプ・シュワブ沿岸部に移すという1996年の日米合意は、いまだに履行されていない。だが対等な関係を模索する鳩山政権は、日米合意を重視しつつ、国内の政治事情にも配慮する必要に迫られている。そのため現時点で日本政府に外圧をかけるのは非常にリスクが高いと、アジア問題の専門家は指摘する。

「発足したての政権の喉元にこの問題を突きつければ、日米関係が誤った方向へ向かってしまう」と、「新たな米安全保障センター」でアジア太平洋安全保障プログラムを統括するパトリック・クロニンは言う。「新政権はまだ未熟だから、アメリカは今は柔軟に対応すべきだ」

「私を信じてほしい」を誤解したオバマ

 新たな日米関係の模索をめぐって最も話題になったのは、来日したバラク・オバマ大統領と鳩山由紀夫首相が普天間問題について率直に意見を交換した昨年11月の首脳会談だ。オバマ陣営は、アメリカは現行計画の履行を希望しているものの、両国の見解の相違をマスコミに公表して鳩山政権を困らせる事態は避けたいという思いを内密に日本側に伝えることにしていた。

 鳩山はオバマに「私を信じてほしい」と語り、オバマはその言葉を信じた。だが問題は、「私を信じてほしい」という言葉に対するオバマの理解が鳩山の意図と食い違っていたことだ。

 先の政府高官は、「普天間をキャンプ・シュワブに移設するという意味だと受け取った」と発言。そのうえで、鳩山の「約束」が実現する時期については曖昧だったと指摘した。

 一方、クロニンに言わせれば、「鳩山にそんなつもりはなかった」。「『私を信じてほしい』は日米合意を完全に履行できるという意味ではなく、もっと政治的な言葉だった。私と一緒にこの問題に取り組んでくれれば協力しますよというニュアンスだ」。おかげで、両首脳の関係はぎくしゃくしてしまった。

 こうした誤解に加えて、オバマ政権の表向きの態度も事態を複雑にしている。クロニンはリベラル派から保守派まで民主党の多くの国会議員と会談したが、誰一人として現行の移設計画が実現可能だとは思っていなかったという。「日本は普天間を移設できない。以上」と、クロニンは言う。「アメリカが(現行計画の履行を)強要しても勝てないと思う。日本側がそれを実行できないからだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中