戦争を語れる「普通の国」へ
国会で軍の役割の拡大をめぐる議論になるたびに、ドイツ軍の派遣は、アフガニスタンでアメリカ、イギリス、カナダ、ポーランドの部隊が戦っている戦争には関係ないという説明が延々と続く。メルケルとフランツ・ヨゼフ・ユング国防相は、「民間と軍を統合した治安維持」というドイツの戦略は賢明だと繰り返してきた。
こうした政治的な曲解を物語る最もばかげた例は、ドイツ軍のトルネード戦闘機6機をアフガニスタンに派遣したことだ。ブリュッセルのNATO高官によると、軍事的にも戦略的にも明確な目的はなく、ドイツのさらなる貢献を要求する多国籍軍をなだめるためだけの行為だという。
議会は偵察飛行だけを認め、収集した情報を将来の空爆に使わないことを条件とした。クンドゥズの事件でドイツの地上軍は、近くにドイツ軍機が待機していたにもかかわらず、米軍に空爆を要請しなければならなかった。
開かれた議論を避けるため、戦争をめぐる情報はねじ曲げられている。例えば、05年に爆撃を受けて死亡したドイツ兵2人を軍は「事故死」と報告。特殊作戦部隊の行動についても詳しい情報は明らかにされていない。
しかしクンドゥズの空爆が流れを変えようとしている。ユング国防相は空爆そのものについてより、情報隠しを非難されている。
戦闘を渋りNATO軍のお荷物に
米英軍やNATO軍は、ドイツが戦闘への参加を渋り、戦略地政学上の役割を果たしていないことに憤慨している。「NATO軍が機能しておらず、その大きな原因はドイツだという空気が広がっている」と、ロンドンのシンクタンク欧州改革研究所のチャールズ・グラント所長は言う。
ドイツ治安当局のある高官は、総選挙が終われば米政府とNATOから、「戦える」部隊の増派を求められるだろうと語る。NATO内には、ドイツを抜きにして(イタリアなど基本的に戦闘に参加しない国々も外して)、軍事的リスクを引き受ける国だけで新しい枠組みを築けないかという議論がある。引いては欧米の治安に関するドイツの発言力を減じようというのだ。
渋々ながら要求に応じる姿勢は見せているが、ドイツ軍の装備不足は深刻だ。国防費はGDP(国内総生産)の1・1%。フランスは2・0%、イギリスは2・3%、アメリカは5%(イラクとアフガニスタンの軍事費を含む)だ。
軍の規模は25万人とフランスに続きヨーロッパで2番目に大きいが、国外に展開しているのは平和維持部隊を含めて計7500人。今のドイツには、これがほぼ限界だ。国外の戦闘に対応できる兵士はごく一部で、大多数は徴集兵で9カ月しか従軍しないため基礎訓練もおぼつかない。
将官200人のうち実戦かそれに近い経験があるのは一握りだ。近代的なヘリコプターや無人航空機、21世紀の戦闘で通用する通信装備の調達は遅々として進まない。
4200人のアフガニスタン駐留軍全体でヘリコプターは8機しかなく、常に数機が使用できない状態だ。そのため補給も援軍もおぼつかず、兵士の大半は日が暮れると基地に帰還する。
実際、ドイツのアフガニスタン政策はいつ破綻してもおかしくない状況をつくってきた。足かせをはめられた軍はますます危険にさらされ、戦争とドイツの国際責任をめぐる国内の議論は不誠実で、有権者は自分たちの国が外国で戦っている理由が分からない。
そして総選挙が目前に迫ったこの時期、その矛盾が一気に噴出した。問題は選挙後にドイツの指導者たちがどう対応するかだ。「戦争」を禁句にしたまま議論を封じるのか。それともつらい選択をして、有権者の支持を得られないときもあるだろうが、ドイツを「普通の国」に戻すのか。
[2009年9月30日号掲載]