最新記事

北朝鮮

見通し暗い6カ国協議の再開

協議再開に向けて北朝鮮への接触を試みるオバマ政権だが双方の隔たりは大きい

2009年10月30日(金)17時47分
ジョシュ・ローギン

「非公式」の対面 北朝鮮外務省の李米州局長(中央)はサンディエゴで開かれた学術会議に出席。左は米国防総省のデレク・ミッチェル次官補代理 ©Mike Blake-Reuters

 10月26〜27日の2日間サンディエゴで開催された学術会議「北東アジア協力対話(NEACD)」には、北朝鮮の核問題を扱う6カ国協議の担当者がアメリカ、北朝鮮の両政府から顔をそろえた。とはいえ、協議再開に向けた進展は望めそうにない。

 表面的に見れば、米政府の担当者らが北朝鮮外務省の李根(リ・グン)米州局長と非公式に対面したことには意義がありそうだ。しかし実際に交渉が行われたり、近く協議が再開される見通しはほとんどないと専門家は見ている。

「この会議は政府間交渉の事前調整ではない。長期的な関係改善を促進させるためのものだ」と、会議を主催したカリフォルニア大学サンディエゴ校世界紛争・協力研究所のスーザン・シャーク所長は言う。

 会議には日本、中国、アメリカ、ロシア、韓国、北朝鮮の政府関係者が参加し、非公式に会談。食事を共にし、様々な分科会に参加した。シャークは会議終了後、6カ国協議のアメリカ側首席代表ソン・キム担当特使と北朝鮮の李が北朝鮮の非核化と安全保障に関して議論したと、報道陣に語っている。しかし同時に、全員が個人の立場で参加していることも強調した。「政府を代表している者はここにはいない」

 北朝鮮が6カ国協議からの脱退を表明したのは今年4月。このところ、その再開に向けて動きがあるのではないかというメディアの憶測が広まっている。ブッシュ政権当時の核交渉の担当者クリストファー・ヒルは水面下で交渉を進めて合意を取り付け、周囲を驚かせた。だがそのやり方は、他の政府関係者をかやの外に置いたという批判も呼んだ。

歩み寄りを見せないアメリカと北朝鮮

 オバマ政権はもっとプロセスを重視し、協議や調整を経て政策を決める。しかし、これまでのところ決定はほとんど下されていない。アメリカと北朝鮮の双方が、かけ離れた基本方針からまったく歩み寄らないからだ。

 アメリカ側は、北朝鮮との2国間交渉は北朝鮮側が6カ国協議に復帰し、金正日総書記が原則として非核化に合意した2005年9月の「共同声明」を遵守することが前提だという姿勢を崩していない。一方の北朝鮮は、核保有国として認知されることと、朝鮮半島の非核化を「相互に検証」することを原則とした上での協議の再開を求めている。これはアメリカ側がとても譲歩できる話ではない。

 どちらか一方、または双方が戦略的な譲歩をしないかぎり(今回の会議の参加者にはその権限はないが)、6カ国協議の真の再開は不可能だ。

「形式は関係ない。協議の中身がすべてだ」と、北東アジア専門のシンクタンク、モーリーン&マイク・マンスフィールド財団のゴードン・フレーク理事長は言う。

「現在の6カ国協議の方向性では北朝鮮が復帰する見通しはない。問題の根底はそこにある」と、フレークは見る。「北朝鮮側は前向きな姿勢をまったく見せていない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中