朝鮮半島のミスター太陽、金大中
だがその後、韓国の国民は和解がもたらした感情的な問題に直面した。8月に平壌とソウルで離散家族が再会したことで、忘れかけていた深い悲しみがよみがえったのだ。
韓国のナム・ボウォン(63)は、71歳の姉に会うために平壌へ向かった。北朝鮮政府はナンを8日間も待たせたあげく、帰国の数時間前になってようやく姉に引き合わせた。「たった30分しか会えなかった」と、ナムは嘆く。
国営農場での重労働に耐えてきた姉は背中が曲がり、歯はほとんど抜け、栄養失調でやせ細っていた。彼女は弟に、北朝鮮では貴重なコメを一袋贈った。ナムは姉への手土産として、毛皮のコートや肌着、靴下などを渡した。「姉の悲惨な姿など見なければよかった」と、ナムは言う。
南北間では直通の電話や郵便がないため、再会を果たした家族は連絡を取り合う方法がない。北朝鮮側は、物理的な制約から離散家族の再会をこれ以上拡大するのはむずかしいとしているが、南の繁栄ぶりを国民に知らせたくないからだとの見方も多い。
南北首脳会談では金正日が韓国を訪問することでも合意に達したが、金泳三(キム・ヨンサム)前大統領など金大中の政敵はこれに反対している。「金正日は統一のパートナーではなく最大の障害だ」と、金泳三は言う。
国内問題にも目を向けよ
批判派は、金大中は北朝鮮との接触を広げることにいちずになりすぎて、国内にある経済危機の兆しを無視しているとも主張している。実際、韓国株式市場の平均株価は年初来の最安値に近い水準だ。米フォードによる大宇自動車の買収交渉が決裂したことも、人々の不安をかき立てた。
韓国最大の財閥、現代グループも深刻な財政難に陥っていると、専門家は警告する。それでも金剛山観光や開城の工業団地建設など、赤字を垂れ流している北朝鮮関連の事業から現代が手を引く気配はない。「景気低迷の兆しが強まれば、太陽政策にも大きく影響しかねない」と、マンスフィールド太平洋問題研究センター(ワシントン)のゴードン・フレークは言う。
金大中は自らの和平プランのために闘い続けるだろう。だが、そろそろ国内問題にも目を向ける必要がある。そのことは金も承知しているはずだ。
ノーベル平和賞決定の発表があった後、彼が最初に行った公務は、全国数百カ所の病院の機能を停止させた医師のストライキについて保健福祉相と話し合うことだった。
金は先週、統一は「実現に20~30年かかる」と国民に訴えたばかりだ。そうだとしても、金の功績が忘れられることはない。苦難に直面しても夢を忘れなかった頑固な楽観主義者として。
[2000年10月25日号掲載]