最新記事

韓国

朝鮮半島のミスター太陽、金大中

2009年8月18日(火)16時23分
ジョージ・ウェアフリッツ(東京支局長)、李炳宗(ソウル)

和平への熱意がアダに?

「南北間ではこの4カ月で過去30年間を上回る進展があった」と、『二つのコリア』の著者であるドン・オーバードーファーは言う。「このプロセスは朝鮮半島、ひいては東アジアの様相を一変させる可能性を秘めているが、その多くが金大中の功績といえる」

 和平への熱意は金大中にノーベル賞をもたらしたが、韓国では逆にそうした熱意が大統領への批判を生み出している。国民の大半は北と和解する兆しが見えたことに興奮を隠せないでいるが、今や祝賀ムードは怒りとフラストレーションに取って代わられつつある。

 金大中は北を喜ばせることに熱心になりすぎていると、批判派は主張する。南はいち早く援助の手を差し伸べたのに、北からの見返りは実質的にゼロだというのが、彼らの言い分だ。

 最近の世論調査によると、国民の3分の2は北朝鮮との接近を急ぎすぎたと感じている。「国内経済の問題が山積みであることを考えれば、北へ送る中国のトウモロコシやタイのコメを買っている場合ではないほずだ」と、延世大学の李政勲(イ・ジョンフン)教授は言う。

 懐疑的な見方をされることには、金大中は慣れている。数十年間にわたって反体制派の政治家として活動し、その代償も払ってきた。

 金が野党勢力に加わったのは、独裁色の強い初代大統領の李承晩(イ・スンマン)が力ずくで再選を果たした52年のこと。61年の選挙で国会議員に初当選したが、3日後に朴正煕(パク・チョンヒ)が軍事クーデターを起こして政権を奪取し、金は投獄された。

 釈放後は反体制活動に没頭し、71年には大統領選に出馬。だが韓国中央情報部(KCIA)を利用して選挙を操作した朴に敗れる。

 73年には、滞在していた東京のホテルから拉致。自宅軟禁され、政治活動は禁止された。

 79年に朴が暗殺された後、政治活動を再開するが、80年に全斗煥(チョン・ドゥファン)が軍事クーデターを起こして権力を手にすると金は再び逮捕されてしまう。それをきっかけに、彼の地元である光州で市民によるデモが暴動に発展。金は裁判にかけられ、死刑を宣告される。

 無期懲役に減刑された金は獄中で4年過ごした後、アメリカへ亡命。85年に帰国し、87年と92年の大統領選で敗れた後、4度目の挑戦となる97年の選挙でついに当選した。72歳だった。

金正日の訪韓に反対の声

 大統領に就任後、アジア経済危機への対応に取り組む間も、金の関心は常に南北関係にあった。98年に行った本誌とのインタビューで、彼は次のように語った。

「私の在任中に(北朝鮮の)金正日(キム・ジョンイル)総書記と会う機会があると信じている。南北に関係する問題をとことん話し合い、解決策を見いだせると信じている」。北との平和的共存についても「北を吸収する形で半島を統一するつもりはない」と言いきった。

 今年3月にはさらに踏み込み、北の経済を困難から救うための政府間援助を申し出た。金正日から首脳会談開催の申し入れがあったのは、それから数週間後のことだ。

 首脳会談は、テレビ向けに演出された感動の「ドラマ」だった。金正日は空港の滑走路で金大中を出迎えた。3日間にわたって議論を重ねた両首脳は「統一問題を自主的に解決する」ことで合意した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中