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地球温暖化排出量規制は個人に課すべき
温室効果ガス削減に取り組む国々が直面している難題の1つに、負担の公平性という問題がある。
アメリカや西ヨーロッパ、日本など一部の国々は長年、石炭や石油といった安価な化石燃料を使って高い生活水準を享受してきた。化石燃料の使用が、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の主な排出源であることは現在ではよく知られている。
CO2排出量に上限を設ければエネルギー価格は高くなり、途上国に暮らす人々の生活向上はさらに困難になる。より良い暮らしを得るために、なぜ自分たちはかつての先進国より苦労しなければならないのか──そんな不公平感を途上国の人々は抱いている。
97年の京都議定書では、途上国は規制の対象から外された。だが今、中国はアメリカよりも多くの温室効果ガスを排出している。
一方で専門家の間では、温暖化が進む前に世界規模でどのくらいのCO2排出量を削減すべきかについての理解が深まっている。つまり排出削減も公平性の問題も、どちらも重大な課題なのだ。
そこで解決策になるかもしれないのが、米国科学アカデミー紀要に掲載された最新の論文だ。これはプリンストン大学のショイバル・チャクラバルティーらによる論文で、国別にCO2の総排出量を定めるのではなく、大量に排出している個人を規制の対象とすべきだと指摘している。
「すべてのCO2排出量の半分は、世界の全人口の10%が排出している」とチャクラバルティーは言う。その多くは先進国に住んでいるが、論文の共同執筆者であるマッシモ・タボニは「中国にもフェラーリを運転して、頻繁に飛行機を利用している人々がいる」と語る。つまりこの論文で提唱されているのは「多くのCO2を排出している個人は、どこに住んでいようが同じように扱われる」制度だ。
これを実現するには、まず個人の排出量の上限を設定してから国別の目標を定めればいい。例えば現在の世界のCO2の年間排出量(約300億ドル)を30年まで維持したいと仮定しよう。
何の制限も行われなければ排出量は430億ドルまで増加する。だが世界中のすべての個人の年間CO2排出量を1人当たり10・8ドルに制限すれば、年間排出量の現状維持は可能だという。
現在、その数値を上回るCO2を排出している個人は世界で10億人を超える。チャクラバルティーによれば、そのうちアメリカ、中国、OECD(経済協力開発機構)加盟国に住む人がそれぞれ4分の1ずつを占め、残り4分の1がそれ以外の地域に暮らすという。ちなみにOECD加盟国の多くはヨーロッパの国々だ。
「平均的なアメリカ人は1日に20ドルのCO2を排出する。(排出削減は)容易ではないが、多くのアメリカ人が削減を迫られるだろう」とタボニは言う。ヨーロッパ人の平均は10ドルくらいだが、それを上回っている人は削減の対象になる(高収入な人ほど排出量が多い)。
中国人の平均は約4ドル、インドでは約1ドルだが、同じように排出量の多い一部の人には規制が課される。「つまり貧しい国々も(排出量を減らすために)何らかの対処が必要となる」とタボニは言う。
また論文は、世界には化石燃料とは無縁の生活を送る非常に貧しい人々が数多く存在すると指摘する。こうした人々は最低限の電気などが利用できるように支援されるべきであり、その代わりに世界の1人当たりの上限値を10・8ドルから10・3ドルに減らすという考えも提案する。
もちろんこれが公平さを実現するための最終的な解決策ではない。だが、現在の膠着状態を打開する手だてにはなるかもしれない。
[2009年7月22日号掲載]