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米外交バイデン「イラン攻撃OK」で空騒ぎ
米副大統領がイスラエルのイラン攻撃に「青信号」? 無駄な騒ぎを生んだだけで、対イラン政策の手詰まり感は変わらない
口は災いの元 失言癖で有名なバイデン(右) Larry Downing-Reuters
ジョー・バイデン米副大統領が、イスラエルのイラン攻撃に「青信号」を出したとされる発言が大きな騒ぎを起こしている。バイデンは7月5日、米ABCテレビの報道番組でアメリカは「いかなる主権国家に対しても、彼らに何ができて何ができないかを指図」することはできないと語った。
この発言をバイデンらしい失言とみる者もいる。一方、これはイランに圧力をかけるのが狙いで、米政権はイランの大統領戦後の混乱以降、硬化していると解釈する見方もある。そして第3の見方は、イスラエルが行動を起こせば「報い」を招くだろうと暗に警告しているというものだ。
しかし、これらの推測はすべて重要な点を見逃している。まずバイデンは自明の理を述べたにすぎない──イスラエルは主権国家であり、イラン攻撃がどれだけ馬鹿げた行為でもアメリカがそれを力づくで止めることはできない。国際政治は「自立システム」で成り立っており、お互いの行動をコントロールできない状況のなかでは、すべての国家は最終的に自国の資源と戦略に頼るしかないと認めただけだ。
第2に、アメリカがイスラエルに「青信号」を出すかどうかは重要ではない。いくらイラン攻撃に反対しようと、いざ攻撃が始まればアメリカも非難を免れることはできない。アメリカはイスラエルの主要な同盟国で、攻撃に使用されるであろう最新兵器の供給元だ。
イスラエルとアメリカは一心同体
バラク・オバマ米大統領とイスラエルの現ネタニヤフ政権との間には意見の隔たりもある。それでもオバマは歴代大統領と同じく、両国の特別な関係を繰り返し強調している。6月のカイロでの演説でも、イスラエルとアメリカの結束は「断ち切れない」と語った。イランを含む多くの国が、アメリカとイスラエルは一心同体だと考えるのも当然だ。
従って、イスラエルが国際的に好ましくない行動を起こせば、アメリカのイメージに傷がつく。入植地の建設、レバノン空爆、ガザ封鎖などでもそうだった。たとえアメリカが珍しくそうした行動に反対したとしても、やはり結果は変わらない。
もしアメリカが真にイランへの武力行使に反対の姿勢をとるのなら、米政府はその意思を明確に示す必要がある。副大統領が口を滑らせたときだけでなく、繰り返し何度も反対の意向を明示すべきだ。
残念ながら、もしイスラエルが攻撃を開始した場合、多くの国々はアメリカの支持を受けたものと考えるだろう。これまでアメリカの評論家や元政府高官はイランへの強硬姿勢を求めてきたし、現政権にも明らかな強硬派がいる。
武力行使という脅しは止めるべき
イラン攻撃が現実のものとなった場合、自らの考えに関係なく米政府が非難されるのは必至だろう。イスラエル政府との密接なつながりは明らかであり、イランの核計画もこれまで問題視してきた。
イランに核兵器を諦めるよう説得する唯一の手段は、武力行使という脅しを交渉のテーブルから外すことだ。その上で、イランの指導者たちが国際機関の厳格な査察を受け入れて開発を断念するか見極めるべきだ。
この方法がうまくいかなければ、イスラエルとアメリカは抑止力という戦略へ後退することになる。しかしイランの選挙後の弾圧で分かったのは、この国の指導者は不合理でも自滅を望んでいるわけでもないということだ。むしろ彼らは、権力に必死でしがみつくありふれた権力者たちだ。こうした相手には抑止力が有効だろう。
つまり状況は何も変わっていない。攻撃に踏み切ったとしても、イランの核計画は遅れこそすれ消滅はしない。逆に、核兵器保有という意志を強くしてしまうだけだ。イランの体制崩壊に手を貸そうとしても、政権の弱体化を招くより強硬派を勢いづかせることになるだろう。
やはり現実的な選択肢は外交しかない。バイデンの不用意な発言で、状況が変わったなどということはない。
Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 10/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.