最新記事

クーデター

イランとホンジュラスに学ぶ国際関係論の基礎

最近の政変で体制側と国民が流血の衝突を演じた両国には、共通点が驚くほど多い

2009年7月8日(水)18時50分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

権力奪取に抗議 クーデターで追放されたホンジュラスのマヌエル・セラヤ大統領が帰国しようとした空港で、セラヤの支持者が警察と衝突(7月5日) Edgard Garrido-Reuters 

 これはロケットサイエンスでも何でもなく入門レベルの国際関係論だが、誰も指摘しないのでここで書こう。

 ホンジュラスイランで今起こっていることは驚くほど共通点が多く、一考の価値がある。

 どちらの国でも、既存体制内の保守勢力が実質的なクーデターを起こした。いずれの場合も、首謀者たちは法的手段と超法規的手段を駆使して自らの権力基盤を固めた。そうした行動は、テヘランでもテグシガルパ(ホンジュラスの首都)でも、体制から追われた側を支持する国民の抗議デモの引き金になった。

 外国からの干渉を被害妄想的なほど嫌うのも共通だ。すると、対立する2国が軍備拡張を競い出すと際限がなくなるという「安全保障のジレンマ」の国内政治版とでもいうべき効果が働く(「主権のジレンマ」と名づけよう)。外国からの干渉に拒絶反応を示せば示すほど、国内事情に対する国際的な関心を強く引き付けるのだ。

 では、両国の間の違いは何か。
■イランはホンジュラスよりはるかに強国である。
■ホンジュラスの戦略的重要性は、イランよりはるかに劣る。

同じ手が通じる相手と通じない相手

 これは何を意味するのか。それは、現実主義と自由主義の論理がホンジュラスでは両立しうるのに対し、イランでは互いに対立するということだ。

 もしブラジルで体制転覆が起こっても、南北アメリカ諸国で構成するOAS(米州機構)がそれを元に戻すことはまずできない。だがホンジュラスなら、多国間協力が効果を発揮するだろう。ホンジュラスが比較的小国だからこそ、OASの加盟国間でのコンセンサス作りも容易になる。多国間の制裁も、ホンジュラスには大きな圧力になる。

 一方イランでは、各国の戦略的利害が対立して体制転換を促すほど大きな力にはなりえない。そもそもガソリンの禁輸以外の経済制裁が、イランの政権に目に見える影響を与えうるのかどうか甚だ心許ない。

 従って他の条件が同じなら、ホンジュラスのクーデターを覆すほうが、イランに体制転換を促すよりずっと実現可能性が高い。

 だが覚えておいてほしい。どんな条件も決して同じに留まらないのが世の常だ。

[米国東部時間2009年07月06日(月)03時53分更新]


Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 8/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中