それでも米露関係が改善しない理由
イラン孤立にロシアのメリット
実際、イランは現在の米露関係を表す適切な実例だ。欧米諸国は、イランの核問題を話し合う上で、世界との関係改善という「アメ」を常にちらつかせてきた。しかしロシアからしてみれば、イランが世界に開かれた国にならないことの方がメリットがある。
理由は天然ガスだ。これをニューヨーク・タイムズ紙のニコラス・グボスデフは、以下のように説明する。
ロシアにとって問題なのは、欧米と同調してイラン政府に圧力をかけた場合、イランが最終的には欧米とリビア型の合意に進んでしまうということだ。つまり、イランのエネルギー産業に欧米が参入することを結果的に許すことになる。
イランが欧米から孤立していることは、ロシアに利益をもたらしている。欧米がイランに眠る莫大な天然ガスを得られないことで、エネルギー資源をロシアに頼らざるを得ないことだけではない。中央アジアから欧州への燃料資源の輸送ルートも、イランを通過することができない。
しかし核問題が解決すれば、イランの天然ガスはロシアを通らずにヨーロッパに続く大規模なパイプライン、「ナブコ・ライン」で運ばれるようになるかもしれない。この計画は現在、多額の投資に見合う燃料の供給がないため事実上瀕死の状態にある。だが、イランはこの現状を大幅に変える存在になりうるのだ。
実質的な意味がないオバマの功績
だからこそ、ロシアが欧米と足並みを揃えてイランに圧力をかけるパートナーになることには期待できない。
さらに、オバマが成し遂げた米露の核削減合意でイランの核開発も阻止できるというのは、まともな考え方ではない。米露がそれぞれ数千の核兵器を削減したところで、イランの指導者層が核開発を諦めるとは思えないからだ。
オバマの訪露による別の功績である、アフガニスタンの米軍への再補給についてロシアが領空の使用を認めたことについては、相反する2つの考えがある。
キルギスタンのマナス空軍基地をめぐる不安定な情勢と、パキスタンを通る補給路の危険性を考えると、別の選択肢を用意するのは良いことだ。
だが同時に、ロシアは政治的な武器を手に入れた。この厚意でアメリカはロシアの言いなりになる状況を作り出してしまった。ロシアから天然ガスの供給をストップされた時のウクライナの窮状を思い返してみるべきだ。
これらのすべては、米露関係の「リセットボタン」に大きな希望をいだく人たちに、根本的な疑問を投げかける──重要な問題の多くで合意できていないのに、さして重要性が高くない問題で進展があったからといって、いったいどれだけ喜べるというのか。
[米国東部時間2009年07月06日(月)18時21分更新]
Reprinted with permission from FP Passport, 7/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.