最新記事

米外交

それでも米露関係が改善しない理由

2009年7月7日(火)17時07分
クリスチャン・ブローズ

イラン孤立にロシアのメリット

 実際、イランは現在の米露関係を表す適切な実例だ。欧米諸国は、イランの核問題を話し合う上で、世界との関係改善という「アメ」を常にちらつかせてきた。しかしロシアからしてみれば、イランが世界に開かれた国にならないことの方がメリットがある。

 理由は天然ガスだ。これをニューヨーク・タイムズ紙のニコラス・グボスデフは、以下のように説明する


 ロシアにとって問題なのは、欧米と同調してイラン政府に圧力をかけた場合、イランが最終的には欧米とリビア型の合意に進んでしまうということだ。つまり、イランのエネルギー産業に欧米が参入することを結果的に許すことになる。

 イランが欧米から孤立していることは、ロシアに利益をもたらしている。欧米がイランに眠る莫大な天然ガスを得られないことで、エネルギー資源をロシアに頼らざるを得ないことだけではない。中央アジアから欧州への燃料資源の輸送ルートも、イランを通過することができない。

 しかし核問題が解決すれば、イランの天然ガスはロシアを通らずにヨーロッパに続く大規模なパイプライン、「ナブコ・ライン」で運ばれるようになるかもしれない。この計画は現在、多額の投資に見合う燃料の供給がないため事実上瀕死の状態にある。だが、イランはこの現状を大幅に変える存在になりうるのだ。


実質的な意味がないオバマの功績

 だからこそ、ロシアが欧米と足並みを揃えてイランに圧力をかけるパートナーになることには期待できない。

 さらに、オバマが成し遂げた米露の核削減合意でイランの核開発も阻止できるというのは、まともな考え方ではない。米露がそれぞれ数千の核兵器を削減したところで、イランの指導者層が核開発を諦めるとは思えないからだ。

 オバマの訪露による別の功績である、アフガニスタンの米軍への再補給についてロシアが領空の使用を認めたことについては、相反する2つの考えがある。

 キルギスタンのマナス空軍基地をめぐる不安定な情勢と、パキスタンを通る補給路の危険性を考えると、別の選択肢を用意するのは良いことだ。

 だが同時に、ロシアは政治的な武器を手に入れた。この厚意でアメリカはロシアの言いなりになる状況を作り出してしまった。ロシアから天然ガスの供給をストップされた時のウクライナの窮状を思い返してみるべきだ。

 これらのすべては、米露関係の「リセットボタン」に大きな希望をいだく人たちに、根本的な疑問を投げかける──重要な問題の多くで合意できていないのに、さして重要性が高くない問題で進展があったからといって、いったいどれだけ喜べるというのか。

[米国東部時間2009年07月06日(月)18時21分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 7/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日本も相互関税対象、自民会合で政府見通し 「大きな

ワールド

韓国憲法裁判所、尹大統領の弾劾巡り4日に判断

ビジネス

米追加関税の除外強く求める、産業・雇用への影響精査

ワールド

日中韓が米関税へ共同対応で合意と中国国営メディアが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中