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消えたエールフランス機の深まる謎

墜落原因は落雷との見方が強まるなか、原因解明の鍵を握るエールフランスは口を閉ざしている

2009年6月5日(金)18時59分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

解明への鍵 ブラックボックスは見つかるのか(写真は機体を捜索する偵察機)

 アメリカとフランスの両当局の発表によると、南大西洋上で墜落したと見られるブラジル・リオデジャネイロ発パリ行きのエールフランス447便が、墜落前にひどい落雷にあったことは間違いないらしい。だが同時に、墜落の原因を示す確かな証拠はまだ見つかっていないとも述べている。

 両国はともに、確固たる証拠が集まるまでは墜落原因を特定できないとしている。墜落現場が遠いことことから、証拠収集には長期を要するという。テロリストから攻撃を受けた可能性については現在のところ証拠は何もなく、信頼できる報告もないとしている。

 AP通信は、アルゼンチンのエールフランス事務所が5月27日、ブエノスアイレス発パリ行きの便に対する何らかの脅迫を受けたと報道したが、エールフランスの広報担当はこの脅迫は間違いだったとしている。いずれにせよ、消息を絶った旅客機はブラジル発パリ行きで、アルゼンチン発ではなかった。

 ブラジルのメディアの報道によると、ブラジル当局は5月、FBI(米連邦捜査局)から連絡を受けてレバノン系の男を逮捕。テロリストに関連のあるウェブサイトを運営しているというのが逮捕理由だったが、取り調べの結果、テロリストとのつながりはないとされ、男は釈放されたという。

 米政府と航空業界の専門家によれば、5月31日夜に消息を絶ったパリ行き447便(エアバスA330型)の墜落原因の鍵を握る唯一の存在はエールフランスだという。航空管制システムの監視能力は遠く離れた海域ではごく限られてしまう。447便の墜落原因や経緯を解き明かす公式な証拠はほとんどないというのが彼らの見方だ。

政府の航空管制システムは頼りにならない

 複数の米政府と航空業界関係者によると(調査が現在も進行中のため匿名を希望)、墜落したと見られる時間、447便はどの国の航空管制システムのモニターにも映らないほど遠く離れた海上を飛行中だった。これらの航空管制システムは通常、地上から送られるレーダーの信号に基づいて作動している。さらに、大西洋と太平洋上の遠隔区域を飛行しているときに旅客機が通信できるのは、比較的原始的な(ときに信頼性の低い)高周波の無線リンクを用いた地上の航空管制システムだけだ。

 これとは対照的に、航空機が地上や陸地の近くを飛行している際には、格段に信頼性が高いVHF(超短波)無線を用いて航空管制システムと通信できる。(海上でも近くの航路を運行している航空機同士は、VHF無線を通して天候情報を共有できる。これまでのところ、447便の乗組員が近くを運行していた航空機に危険について連絡していたとする情報は出ていない)。

 各国の航空管制システムが使用している原始的な無線電信機とは対照的に、航空会社はエアバスA330型のような機体には、高精度の衛星通信システムを装備させているのが通常だ。これによって、乗組員は地上から数百マイル離れた政府の航空管制システムがカバーできない海上航路を飛行中でも、自社の通信指令係と交信できる。

 447便が消息を絶った直後にエールフランスが明らかにしたところによれば、同社は離陸して約3時間後に機上の電気系統の不具合を知らせる自動通信を受け取っていたという。「自動通信は、海岸から離れた空域で電気系統に故障が生じたことを示唆していた」と、エールフランスは発表している。
 もし機体が故障を知らせる自動通信を送ることができたのなら、論理的に考えると、パイロットは衛星通信を使ってエールフランスの通信指令係か修理係、もしくは緊急対応係と口頭でコンタクトを取れたはずだ。だが、こうした通信記録についての発表はない。

 本誌が447便は消息を絶つ前に連絡してきたのかとエールフランスに尋ねたところ、仏政府当局よりこうした質問には回答しないよう指示されているとのことだった。

 仏運輸省事故捜査局の報道官も、この件に関する一切のコメントを拒否した。一方で、同機が乱気流の多発する「暴風圏」で墜落したと当局が考えていることを認めた。当局は、6月末までに今回の事故の最初の報告を公表することを目指しているという。

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