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内戦「トラ狩り」に学ぶゲリラ掃討戦術
スリランカ政府の戦略も優れていたが、地の利や多数民族の強みもあった
多くの専門家に言わせれば、反政府ゲリラを軍事力だけで壊滅させるのは難しい。武装勢力との戦いの行方を決定づけるのは主に、政治的な対応の巧拙だからだ。
だがスリランカ内戦が劇的な幕切れを迎えた今、専門家も見方を変えるかもしれない。スリランカの少数民族タミル人の反政府武装組織「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」は5月17日、26年に及んだ政府軍との戦いで事実上の敗北宣言をした。
スリランカ政府の掃討作戦には、いくつかのカギとなる戦術があった。まず、民間人(主に多数派のシンハラ人)の保護を名目に地域ごとに重武装の民兵組織をつくったこと。2つ目は、民兵がLTTEの支配地域を制圧した後は直ちに政府軍を送り込み、支配権を確保したこと。3つ目はジャングルの奥深くに特殊部隊を送り込んでLTTEの拠点を捜し出し、GPS(衛星利用測位システム)を使って空爆地点を指示したことだ。
こうした作戦の多くは他の戦闘地域でも応用できる。事実、米中央軍のデービッド・ペトレアス司令官はイラクにおいて同様の手法を用いてきた。
アフガンの米軍にはマネできない
一方で応用が難しい作戦もある。英軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリーのティム・フィッシュ記者によれば、島国のスリランカでは海上封鎖がLTTEの補給路を断つ上で大きな効果を挙げた。だがアフガニスタンでは、武装勢力の補給路を断つのは不可能に等しい。長い国境を接しているパキスタン北西部の部族地域は、いわば無法地帯だからだ。
スリランカでは「内戦中は人権侵害もやむなし」という世論を背景に、民間のタミル人に紛れたLTTE戦闘員を見つけ出すために避難民を一時的に強制収容するといった措置も認められた。タミル人が全人口の十数%にすぎないからこそできた措置だ。
政府軍が内戦の最終局面で行った無差別砲撃・空爆は、多くの民間人の命を危険にさらしたとの批判も出ている。米軍がアフガニスタンやイラクで同様の攻撃を行うのは無理だろう。
スリランカ内戦が証明したのは、武装勢力の制圧には長い時間がかかるという事実だ。米軍の戦いもまだ先は長いかもしれない。
[2009年6月 3日号掲載]