第6世代が中国を変える
自己主張、でも反逆はせず
第6世代のなかで、現時点で出世頭として注目を集めているのは、周強だ。周は共青団の第一書記を務めた経歴をもつ。胡錦濤も務めたこのポストは、最高幹部への登竜門とみなされている。
周は今年、湖南省の省長に起用された。異例のスピード昇進だが、それに匹敵する出世頭がもう1人、第6世代にいる。現在の閣僚中最も若い孫政才(農業相)だ。しかし、異色のキャリアでトップをめざす点では、周も孫も、今の共産主義青年団第一書記、胡春華にかなわない。
83年に北京大学を首席で卒業した胡は、首都での安楽なポストを蹴り、(公式記録によれば)なんと自ら志願してチベットに向かった。高山病の危険もある奥地のポストは、普通なら更迭されて行くところ。「出世の足がかり」にふさわしくはない。
胡はチベットで13年を過ごした。最初は新聞社で働き、その後は国営ホテルの政治委員となった。
このキャリアがライバルと「違う強み」になっていると、国立シンガポール大学の東アジア研究所のヤン・ターリー所長はみる。「自らの信念に従い、行動する努力家とみなされるようになった」
胡春華のチベット勤務時代が、胡錦濤がチベット自治区の共産党書記を務めた時期と重なっていたことも幸いした。このときの人脈は大いに役立っている。
強烈な個性を欠き、小さくまとまった印象のある現指導部と比べると、胡春華に代表される第6世代は自己主張の強さが目立つ。しかし、彼らも決して欧米の基準で言うような「反逆児」ではない。天安門事件後、スピード出世の望みが残されたのは、党に最も忠実なメンバーだけだった。
今は、毛沢東時代のように1人の指導者がカルト的な崇拝を集める時代ではなく、集団指導体制の時代だ。「若い世代はより自立心が強く、個人主義的な傾向があるが、彼らもこれから年を取れば、集団主義になじむだろう」と、デューク大学のシーは言う。
江沢民を後ろ盾に持つ男
それでも中国の政治風土は変わりつつある。党内の決定や人事は、「票決」に付されるようになったと、ブルッキングズ研究所のリーは言う。しかも、この票決という語は「党の綱領に盛り込むよう推奨されている」。
最近、党員を対象に行われた党大会前の非公式調査では、上海市共産党書記の習近平(シー・チンピン、54歳)が高評価を得た。李克強と共に政治局常務委員に異例のスピード昇進を果たすとの憶測が持ち上がっている。
習の後ろ盾は、胡錦濤の前任者で、現役を退いた今も大きな影響力をもつ江沢民だ。江の圧力があれば、胡錦濤も習を李とほぼ同等な地位に登用せざるをえないかもしれない。もっとも、人事に関する噂をうのみにするのは禁物。党大会が近づくとさまざまな憶測が流れるのは毎度のことだ。
第6世代の誰がトップに出るかは、まだ予測できない。「胡錦濤は自分の後継者すら決定できないのだ。その次の後継者をどうやって決められる?」と、ブルッキングズ研究所のリーは言う。共産党内にも、もはや昔ながらの指導部選びの手続きは通用しないとみる向きがある。
「ルールは変わるものだ」と、リーは言う。「何が起きてもおかしくない......第6世代がトップに立つころには共産党そのものがなくなっているかもしれない」
もちろん、党の崩壊を予想する人は何十年も前からいた。だが確かなのは、中国全土を洗う変化の波にはどんな指導者も逆らえないという事実だ。オールド毛の時代は終わったのである。
[2007年10月17日号掲載]